小松法律事務所

祭祀財産承継者指定・遺骨の分骨等却下審判への抗告棄却高裁決定紹介


○「祭祀財産承継者指定と遺骨の分骨・引渡申立を全て却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審の平成30年1月30日大阪高裁決定(判タ1455号74頁、家庭の法と裁判17号47頁)全文を紹介します。

○抗告人(母A)が,主位的に,被相続人(長男)の祭祀財産の承継者を抗告人と定める処分を,予備的に,遺骨の分骨及びその引渡しを求めた事案において,本件各申立てをいずれも却下した原審判について,主位的申立てについては被相続人の祭祀主宰者は相手方(父B)と認められ,予備的申立てについても祭祀の対象となる遺骨の一部を抗告人に分属させなければならない特別の事情があるとはいえないとして,抗告を棄却しました。妥当な判断と思われます。

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主   文
1 本件抗告を棄却する。
2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨及び理由
 別紙抗告状及び抗告審主張書面3通(平成29年○○月○○日付,平成30年○○月○○日付,同月○○日付)の各写しのとおり

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所は,原審判を相当と判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは原審判の理由(原審判1頁24行目から5頁末行まで)に説示のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原審判2頁22行目の「相手方は,離婚後も,」を「抗告人と相手方は離婚後に没交渉となったが,相手方は,」に改め,23行目の「申立人も」の次に「被相続人の命日等に」を,24行目の「いなくなり,」の次に「上記墓地の使用許可が取り消されて」をそれぞれ加え,25行目の「相手方の死後も」を「将来相手方が死亡しても」に改める。

(2) 原審判3頁7行目の「D霊園に」の次に「D霊園の墓地に33回忌のために」を加え,10行目の「遠方であって」を「抗告人が住むDから遠く,かつ,相手方の実家付近であることもあって」に,19行目から同5頁14行目までを次のとおり改める。
「2 上記認定事実によれば,次のとおり判断することができる。
(1) 抗告人と相手方は,平成7年○○月○○日,離婚後の財産分与調停事件において,「(被相続人の)墓地については相手方において管理し,申立人(抗告人)は随時墓参することとする。」との調停条項を含む調停を成立させている。そして,相手方は,上記の調停に先立ち,現に被相続人の喪主として葬儀を執り行い,D霊園の墓地を借り受け,本件遺骨を納骨してその祭祀を主宰することを開始し,上記の調停後も本件遺骨の改葬まで約20年の永きにわたって管理料を支払うなどして墓地の管理を継続してきたのである。そうすると,抗告人と相手方の間では,遅くとも上記調停の成立時には被相続人の祭祀主宰者を相手方と定める旨の協議(合意)が成立したと認めるのが相当である。したがって,被相続人の祭祀主宰者については,当事者間の協議によって既に定まっているというべきである。

(2) 抗告人は,上記の調停においては,本件遺骨が当事者のいずれに帰属するかを意識した協議がされていないと主張する。
 しかし,上記調停においては,本件遺骨が埋葬された墓地(被相続人の墳墓)について,当事者のいずれが管理するかを殊更に条項化していることからすれば,その当時,当事者間には,本件遺骨の帰属や被相続人の墓地の管理を巡る紛争があり,これを意識していたことが優に推認できる。抗告人の上記主張は採用することができない。

(3) 抗告人は,相手方が,その後,本件遺骨を改葬し、抗告人,長女及び二女による墓参に支障を生じさせ、祭祀主宰者としての適格性を喪失するに至ったから,被相続人の祭祀主宰者を相手方から抗告人に変更すべきであるとも主張する。
 しかし,相手方は,被相続人の墳墓を約20年の永きにわたって管理料を支払うなどして管理してきたが,自身が高齢化するにつれ,死亡後,管理料が支払われずに無縁墳墓となることを懸念するようになり,これを契機として本件遺骨の改葬を決め,○○県内のE家墓所に祖先の墳墓とは別に被相続人の墳墓を設置して本件遺骨を埋蔵したものである。このように,相手方が本件遺骨を改葬したのは,相手方の死後もその親族によって被相続人の墳墓を維持・管理させるためであって,祭祀主宰者の判断として相応の必要性や合理性が認められる。

 他方,相手方が抗告人に事前に連絡をしなかったことは些か配慮を欠くものであるが,抗告人と相手方とは離婚後20年以上の永きにわたって没交渉であったのであるから,そのような対応にはやむを得ない面もある。さらに,相手方は,被相続人の墳墓をE家の祖先の墳墓とは別に新たに設置した上,本件遺骨を埋蔵しているのであるから,抗告人らの心情や墓参の便宜にも配慮していると評価できる。そうすると,相手方が本件遺骨を改葬したからといって,祭祀主宰者としての適格性を喪失したということはできない。
 したがって,被相続人の祭祀主宰者を変更すべき事情がある旨の抗告人の上記主張は採用することができない。」

(3) 原審判5頁18行目から24行目「解し難い。)」までを次のとおり改める。
「3 抗告人は,相手方が本件遺骨を改葬するなどして,抗告人,長女及び二女の墓参を拒んでいることから,本件遺骨の分骨手続及び当該分骨の引渡しを認める必要があるし,本件遺骨の分骨そのものは物理的に可能でありこれを禁ずる根拠もないから,民法897条2項に基づき,本件遺骨を分骨し抗告人に引き渡すべきであると主張する。

 しかし,本件記録によっても,相手方が抗告人らの墓参を拒んでいると認めるに足りる資料はない。むしろ,相手方は,本件遺骨の改葬に際し,祖先の墳墓とは別に設置した被相続人の墳墓に本件遺骨を埋蔵し,抗告人らの心情や墓参の便宜に配慮している。その上,相手方は,抗告人との協議により被相続人の祭祀主宰者と指定された後,約20年の永きにわたって管理料を支払うなどして本件遺骨を埋蔵した被相続人の墳墓の管理を継続している。これに対し,抗告人は,この間,相手方とは没交渉であったが,法事の機会には被相続人の墳墓に自由に墓参するとともに,相手方による祭祀には何らの異議も述べずに相手方に一任してきたという経緯がある。そのような相手方において,本件に先立つ当事者間の民事訴訟においても,本件遺骨の分骨に強く反対していることも総合すれば,祭祀の対象となる本件遺骨の一部を抗告人に分属させなければならない特別の事情があるということはできない。

2 よって,原審判は相当であり,本件抗告は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり決定する。
 大阪高等裁判所第9民事部 (裁判長裁判官 松田亨 裁判官 檜皮高弘 裁判官 大淵茂樹)