小松法律事務所

引きこもり者の安否確認等について特別縁故者該当とした家裁審判紹介


○「相続財産管理人の実務-特別縁故者の要件等」で、特別縁故者の要件について、「③その他被相続人と特別の縁故があった者」の判定は、「抽象的基準であるため大変難しく、相当数の申立があるも相当数が該当せずとして却下されています。」と記載していました。

○被相続人が引きこもりのため意思の疎通を図ることは困難になったものの、その父親から被相続人のことを頼むと依頼され,その父死亡後,自宅に引きこもりがちとなり,周囲との円滑な交際が難しくなった被相続人に代わり,葬儀や建物の修理等の重要な対外的行為を行い,近隣と連絡を取り,折りに触れ被相続人の安否確認を行い,必要な場合には被相続人の安否確認に立ち会い,被相続人死亡時には,遺体の発見に立ち会って,遺体を引き取り,葬儀を執り行ったことについて、特別縁故者と認めた平成25年12月26日東京家裁審判(判時2271号47頁)全文を紹介します。

○ただし、遺産総額3億7875万円の内わずか300万円しか分与されなかったため、申立人は不服として東京高裁に抗告しています。抗告審は別コンテンツで紹介します。

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主  文
1 申立人に対し,被相続人の相続財産から,300万円を分与する。
2 手続費用は申立人の負担とする。 

理  由
1 申立ての趣旨

 申立人は,被相続人と特別の縁故関係があったから,相続財産の分与を求める。

2 当裁判所の判断
(1)本件記録(関連事件記録を含む。)によれば,以下の事実が認められる。
ア 申立人は,被相続人の従兄妹である。被相続人の父親であるDは,申立人の母であるCの弟である。

イ □□家と△△家は,60数年前ころ,○○(当時)から○○に移り住み,親戚付き合いを続けてきた。平成3年に申立人の父であるGが死亡した際は,Dが葬儀の手配等を執り行った。

ウ 昭和60年ころから,被相続人とDとの間に確執が生じ,申立人が被相続人宅に行っても,被相続人が話に加わることはなくなった。平成13年に被相続人の母であるFが死亡した後,申立人が被相続人と意思の疎通を図ることは困難になった。

エ 平成18年,Dが入院したが,その際,申立人は,Dから,被相続人と家をよろしく頼む旨依頼された。Dが死亡した際,申立人は,被相続人に代わり,○○の親族に連絡するなどして,葬儀,四十九日,納骨等の手配を行った。

オ D死亡後,申立人は,折に触れ被相続人宅を訪れ,被相続人の安否を確認していたが,被相続人は,精神的に弱っており,自宅に引きこもり,申立人が会いに行っても全く出てこない状態であった。申立人は,民生委員や近所の家に緊急連絡先として申立人の連絡先を伝え,近所の家には何度か届け物をしたりした。

カ 平成20年ころ,被相続人宅の近所の者から,被相続人宅の郵便物がポストから溢れており,雨戸もしばらく開いておらず,洗濯物等がベランダに出たままであるため確認してほしいとの連絡があり,申立人は,他の親戚と共に被相続人宅を訪れた。呼び鈴を鳴らし,大声で呼びかけたが応答がなく,風呂場の窓ガラスを割って室内に入ると,被相続人は,2階のゴミ等が積み上げられている中にうずくまっていた。被相続人は,申立人らを見て,「何しに来た。」,「人の目が怖い。」,「大丈夫だから帰ってくれ。」などと述べたので,申立人らは,何か不便なことがあれば近所の者や申立人にすぐに連絡するように説得し,帰宅した。

キ 平成22年×月×日,申立人は,警察及び消防署から,Dの工房で火事があったとの連絡を受けた。申立人は,建物入口のドア,車庫の鎖等の修理をして,建物内に人が入れないようにした。その際,申立人は,被相続人宅を訪ねたが,建物は雨戸が閉められており,被相続人と会うことはできなかった。

ク 平成23年×月×日,申立人は,○○の保健師から,被相続人宅の近隣の人から1か月くらい電気が付いていないとの連絡が入っている旨の連絡を受けた。外から呼びかけても応答がなかったことから,申立人立会いのうえ,警察官が風呂場のガラス窓を外して室内に入ったところ,被相続人の遺体が発見された。

ケ 被相続人の死亡後,申立人は,被相続人の遺体を引き取り,葬儀の手配を行った。また,申立人は,○○の本家筋らと協議をし,○○の本家筋で□□家3名の今後の供養をしてもらうよう手配をし,墓の処理等の手続を行った。

コ その後,申立人は,東京家庭裁判所に,被相続人の相続財産管理人選任の申立を行った。

(2)上記エないしケの事実に照らせば,申立人は,Dから被相続人のことを頼むと依頼され,D死亡後,自宅に引きこもりがちとなり,周囲との円滑な交際が難しくなった被相続人に代わり,葬儀や建物の修理等の重要な対外的行為を行い,近隣と連絡を取り,折りに触れ被相続人の安否確認を行い,必要な場合には被相続人の安否確認に立ち会い,被相続人死亡時には,遺体の発見に立ち会って,遺体を引き取り,葬儀を執り行ったものであるから,「被相続人と特別の縁故があった者」に該当すると認めるのが相当である。

 この点に関し,平成13年に被相続人の母であるFが死亡したころから,申立人と被相続人が意思の疎通を図ることが困難になったことは前記ウのとおりである。
 しかしながら,それは,ひきこもりに象徴される被相続人の精神的問題が原因と推察されること,客観的には,重要な節目で,被相続人の後ろ盾となっていたのは申立人であったことに鑑みれば,申立人は,被相続人と具体的,現実的な特別の縁故関係にあったと認めるのが相当である。


(3)そこで,分与額につき検討するに,本件記録(関連事件記録を含む。)に顕れた申立人の関与の程度,その他一切の事情を考慮し,相続財産管理人Eの意見を聴いたうえ,被相続人の相続財産から申立人に対し300万円を分与するのを相当と認め,主文のとおり審判する。