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民法969の2「通訳人の通訳による申述又は自書」と判断した判例紹介1

○亡Aの子である原告が、平成24年8月10日付け遺言公正証書による亡Aの遺言(前遺言)及び平成24年12月11日付け遺言公正証書による亡Aの遺言(本件遺言)において遺言執行者として指定された被告Y1並びに亡Aの子である被告Y2及び同被告Y3に対し、本件遺言の無効確認を求めるとともに、被告Y2及び被告Y3に対し、本件遺言に基づいて同被告らが払い戻した亡Aの預貯金につき、不当利得の返還を求めました。

○これに対し、本件遺言は、亡Aの遺言能力を欠くものとはいえないと判断し、亡Aが人工呼吸器の装着により発話が不明瞭で、公証人にとって聴取が困難であった本件において、頻繁に亡Aを見舞って会話をし同人の発話内容を理解できる訴外Fが亡Aから聞き取り理解した内容を公証人に伝え、公証人が自ら聞き取ったと思う内容と付合するかを確認するという方法は、民法969条の2第1項にいう「通訳人の通訳」の範疇に含まれ、また、被告Y2と交際していた訴外Fは、推定相続人との間に証人及び立会人の欠格事由に相当する親族関係があるとはいえず、通訳人の資格に係る民法974条2号に違反しないと判断して、遺言を有効とし、原告の請求を棄却した平成27年12月25日東京地裁判決(判時2361号61頁)を2回に分けて紹介します。

第969条の2(公正証書遺言の方式の特則)
 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第2号の口授に代えなければならない。この場合における同条第3号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。

第974条(証人及び立会人の欠格事由)
 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族

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主  文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求

1 原告と被告らとの間で,東京法務局所属公証人Bの作成に係る平成24年12月11日付け同年第136号遺言公正証書による亡A(以下「亡A」という。)の遺言(以下「本件遺言」という。)が無効であることを確認する。
2 被告Y2は,原告に対し,257万3581円及びこれに対する平成25年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告Y3は,原告に対し,257万3581円及びこれに対する平成25年1月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
1 本件は,東京法務局所属公証人Bの作成に係る平成24年8月10日付け同年第087号遺言公正証書による亡Aの遺言(以下「前遺言」という。)中の条項では,亡Aの一部の株式以外の全財産を亡Aの長男,長女及び二女である原告,被告Y2及び被告Y3に各3分の1の割合で相続させるものとされていたところ,本件遺言では,前遺言の上記条項を撤回し,亡Aの一部の株式以外の全財産を被告Y2及び被告Y3に各2分の1の割合で相続させるものとされたことから,原告が,①前遺言及び本件遺言において遺言執行者として指定された被告Y1並びに被告Y2及び被告Y3に対し,本件遺言が無効であることの確認を求めるとともに,②被告Y2及び被告Y3に対し,本件遺言に基づいて被告Y2及び被告Y3がそれぞれ払い戻した亡Aの預貯金各772万0743円につき,不当利得返還請求として,前遺言による原告の指定相続分3分の1に相当する各257万3581円及びこれに対する相続開始の日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

             (中略)


第3 当裁判所の判断
1 前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件の事実経過として,以下の事実が認められる。
(1) 亡Aは,長年にわたり,夫のCとともに本件各社等を経営し,本件各社の各代表者(a社の共同代表取締役及びb社の株式会社への組織変更後の代表取締役)を務めていたが,平成16年頃から慢性閉塞性の肺疾患等にり患し,平成23年4月頃から肺疾患等の治療のため入退院を繰り返し,同年11月には肺腺癌の放射線治療のため入院するなど,病状が徐々に進行していたことから,同月頃から上記各社等の事業や自らの財産の承継の在り方について検討するようになった(前記前提事実(2)ア及びウ,甲31,38,丙1)。

(2)
ア 平成23年12月26日,亡A及びCと原告との間で,その当時債務超過の状態にあったb社につき,亡A及びCの有するb社の株式の全部を原告に売り渡す旨の本件売買契約が締結され,平成24年1月17日,b社について有限会社から株式会社への組織変更がされた(前記前提事実(2)ア及びイ)。

イ 平成24年3月2日,亡Aの自宅において同人の口述を聴取したD公証人によって旧遺言公正証書が作成され,その内容は,旧遺言条項①ないし③のとおり,亡Aの有する自宅など不動産の大半に係る持分を原告に相続させるというものであり,付記事項にも,会社の事業継承がうまくいくことを願い,亡Aの財産を原告を中心に相続させる旨の意向が記載されていた(前記前提事実(3))。

(3)
ア 平成24年4月頃,本件株式交換及び本件株式併合(以下併せて「本件株式交換等」ともいう。)並びに本件株式売買契約に基づき,当時資産超過の状態にあったa社をb社の完全子会社として前者の株式1株につき後者の株式1000株を割り当て,b社の株式1000株を1株に併合した上で,亡A及びC(以下,併せて「亡Aら」という。)の有するb社の株式の全部を原告に譲渡することを内容とする諸手続が終了したが,同年5月下旬頃以降,亡Aらは,原告に対し,本件株式交換等の内容は事前に説明を受けておらず了承していない,本件株式売買契約はこれらを前提とするものではない等の異議を述べ,本件株式交換等の決議及び本件株式売買契約の成否や効力を争う亡Aら及び被告Y2らと原告との間で,本件各社の株主権等をめぐり争いが生じた(前提事実(2)イ,甲31,38,丙1)。

イ 平成24年5月及び同年6月下旬から7月上旬頃まで,亡Aは2回の入退院をしたが,同年5月下旬以降,原告は,亡Aから,本件各社を原告に乗っ取られた,原告に事業承継をした覚えはないと等と度々言われ,亡Aに本件各社の取締役の辞任を求めたがこれを拒まれた後,同年6月26日,入院中の亡Aの病室を訪れ,亡Aに対し,同人を本件各社の取締役から解任する旨を告げた。

 そこで,同年7月中旬頃,亡Aは,a社の顧問弁護士であった被告Y1を自宅に呼び,遺言公正証書を作り直し,原告及び被告Y2らが協力して本件各社を経営していくように,亡Aの財産を原告,被告Y2及び被告Y3に3分の1ずつ相続させる内容に改めてほしい旨を要請し,亡Aの上記の意向を受けた被告Y1の依頼により,B公証人が亡Aの自宅を訪れて遺言公正証書を作成し直すこととなった。
 a社から亡Aに対し同年7月分の同人の役員報酬は支払われていたこと等から,同月の時点では,亡Aは,原告が実際に自分を本件各社の取締役から解任することまではしないものと認識していた。
 (以上につき,前提事実(2)ウ,甲31,丙1,原告本人)

ウ 平成24年8月10日,亡Aの自宅において同人の口述を聴取したB公証人によって前遺言公正証書が作成され,その内容は,前遺言条項①ないし⑦のとおり,旧遺言を撤回し,亡Aのb社の株式を原告及び被告Y2らに一定の株数ずつ相続させ,それ以外の一切の財産を原告,被告Y2及び被告Y3に各3分の1の割合で相続させ,遺言執行者として被告Y1を選任し,祭祀承継者として原告を指定するというものであり,付記事項にも,原告及び被告Y2らが互いに協力して本件各社の経営等に当たり,原告が謙虚な気持ちで親族や社員に接することを願う旨の記載がされている。

 また,前遺言条項④には,上記アの経緯に係る亡Aの異議の内容として,亡Aは,平成23年12月16日に本件株式売買契約を締結したが,b社の株式会社への組織変更後に原告が本件株式併合の株主総会決議があったかのような議事録を勝手に作成して1000分の1の代金しか支払わなかったため,残代金の支払を催告した上で本件株式売買契約を解除したので,前遺言当時においてb社の株式3900万1000株の全てを有している旨が付記されている。 (以上につき,前記前提事実(4))

(4)
ア 平成24年8月13日,亡Aは,急性呼吸不全を契機として再び入院し,同年10月上旬頃に呼吸不全の増悪のため咽喉部に人口呼吸器が装着され,その後は,人口呼吸器のために声がかすれて小さくなり医師等には発話の内容が聞き取りにくくなることがあったが,頻繁に入院中の亡Aを見舞い同人と会話をしていた被告Y2ら及び被告Y2の交際相手であるFは,亡Aの声がかすれて小さくなったときでも,聞き慣れた同人の声質や話し方等を判別することにより,発話の内容を理解することができた(前記前提事実(2)ウ,甲7,38,乙ロ3,丙1,証人E,証人F,弁論の全趣旨)。

イ 平成24年10月31日,亡A及び被告Y2らの同意の下に,苦痛の緩和のために亡Aへのモルヒネ剤の投与が開始され,同年11月中旬頃以降,亡Aは,看護師らに対して不安や寂しさを頻繁に訴えたり,被告Y2らに対してはそれらがうまく伝わらずに時折つじつまの合わない言葉を発したりするようになったが,看護師1名の診療経過記録中には,その間の亡Aの状態につき,1度紙に意味不明なことを書いて伝えようとしたこと以外は,「しっかり書き表わせる」,「発言もしっかりされている」との記載(同年12月11日の記録)がある(甲8ないし22)。

ウ 平成24年10月25日,a社の共同代表取締役及びb社の取締役であった原告は,本件株式交換等及び本件株式売買契約によって本件各社の一人株主となったとの認識を踏まえ,本件各社の取締役から亡Aを解任した旨を記載した同年6月29日付け各株主総会議事録及びb社の代表取締役に原告を選任した旨を記載した同日付け取締役会議事録(いずれも原告の作成に係るもの)を添付して商業登記申請を行い,同年10月25日付けで,本件各社に係る亡Aの取締役解任及び代表取締役退任の登記(同年6月29日解任及び退任)並びにb社に係る原告の代表取締役就任の登記(同日就任)がされたが,これらの登記について亡Aへの告知はされなかった(前記前提事実(2)ア,丙1,弁論の全趣旨)。
 a社から亡Aに対し平成24年8月分から10月分までの同人の役員報酬は支払われていたが,同年11月分の同人の役員報酬が支払われなかったことから,これを知った亡Aは,同月中旬頃,被告Y2に依頼して本件各社の登記簿を確認したところ,上記解任等の登記がされていることが判明した(なお,原告は,同年11月26日,本件各社の経理担当の従業員であった被告Y2に対しても,本件各社の代表取締役として,a社につき懲戒解雇,b社につき普通解雇の各意思表示をしており,これらの解雇の効力も別途の訴訟で係争中である。)。
 (以上につき,甲31,丙1,原告本人)

 そこで,平成24年11月下旬頃,亡Aは,容態の安定している時に被告Y1を本件病院に呼び,遺言公正証書を更に作り直し,原告及び被告Y2らが協力して本件各社を経営していくように,b社の株式は前遺言のとおり原告及び被告Y2らに相当数ずつ相続させるが,亡Aのb社の株式以外の財産については被告Y2及び被告Y3に各2分の1ずつ相続させる内容に改めてほしい旨を要請した。その直後に亡Aの容態は一時悪化したが,同月30日に容態が安定した時点で本件病院を訪れた被告Y1は,亡Aが,しばらく話をすると声がかすれて小さくなり聞き取りにくくなる状態ではあるものの,なお上記のとおり遺言公正証書の作り直しをしたいとの意向を示していることを確認した。

 そして,同年12月上旬頃,亡Aの上記の意向を受けた被告Y1の依頼により,B公証人が本件病院に赴いて遺言公正証書を作成し直すこととなり,同月の時点では亡Aの手の筆圧が不十分で筆談も困難な状態であったため,亡Aの申述が聞き取りにくい場合の通訳人の確保を求める同公証人の要請を受けた被告Y1の調整により,上記アの事情を踏まえ,Fが通訳人としてその作成に立ち会うこととなった。
 (以上につき,乙ロ3,丙1,証人F,証人B)

エ 平成24年12月11日,本件病院において入院中の亡Aと面接したB公証人によって本件遺言公正証書が作成され,その内容は,本件遺言条項①ないし③のとおり,前遺言の各条項のうちb社の株式並びに遺言執行者及び祭祀承継者に関する条項は維持するがそれ以外の条項は撤回し,亡Aの有するb社の株式以外の一切の財産を被告Y2及び被告Y3に各2分の1の割合で相続させるというものであった(前記前提事実(5))。

 同日,亡Aによる遺言内容の申述のうち,前半部分はB公証人が通訳を介さずに自らその内容を聞き取ることができたが,後半部分は声がかすれて小さくなり,同公証人は,後半部分の聞き取りにくい発話のうち,亡Aの顔に近づくなどして相応の部分を聞き取るとともに,自ら聞き取ったと思う内容の正確性に疑義がありその確認に慎重を期した方がよいと判断した部分についてはFに通訳を依頼した。Fは,耳を亡Aの口元に近づけるなどして当該部分の発話を聞き取ってその内容をB公証人に伝え,同公証人は,その内容が自ら聞き取ったと思う内容と一致することを確認した。 (以上につき,乙ロ3,証人F,証人B)

 同日,B公証人は,通例の手続の流れに従い,亡Aの受け答えの態度,表情及び言葉,遺言内容の申述及び読み聞かせの各確認の全過程における亡Aの態度,聞き取った言葉と遺言内容の単純さ(b社の株式については前遺言の内容を変えず,その他の財産は娘2人に半分ずつ分けるというもの)等を総合した上で,本件遺言について亡Aには遺言能力があると判断し,本件遺言公正証書を作成した(証人B)。

(5)
ア その後,亡Aは,病状の進行により徐々に呼吸困難が増悪して全身状態が衰弱し,癌性胸水及び肺炎の悪化等により,平成25年1月29日に本件病院で死亡した(甲7,22)。

イ 亡Aの死後,C及び被告Y2らがb社及び原告に対し株主の地位の確認及び上記決議の不存在の確認を求める別件訴訟が提起され,その第1審では,本件株式交換等及びこれを前提とする本件株式売買契約はそれぞれ有効に成立している等として,C及び被告Y2らの上記各請求を棄却する旨の判決がされた(前記前提事実(2)イ,甲38。なお,一件記録によれば,本件口頭弁論終結後,別件訴訟の控訴審(東京高等裁判所平成27年(ネ)第3095号)では,C及び被告Y2らの控訴を棄却する旨の判決がされたが,その理由中においては,原告の依頼を受けた税理士等がスキームを立案した本件株式交換等につき,亡Aは,事業承継に係る当該スキームの目的や概要を認識した上で手続を行うことに同意したものの,事前にはその複雑な内容の詳細までは必ずしも十分に理解しておらず,当該各手続の終了後に,本件各社の顧問税理士から当該各手続によって本件各社がメインバンク等の管理下に置かれることとなったなどと説明を受け,また,一人株主となった原告から取締役の辞任を求められるようになったことから,本件株式交換等の決議及びこれを前提とする本件株式売買契約の成否や効力を争うこととなり,死後の当該訴訟の提起に至った旨の認定がされていることがうかがわれる。)。


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