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民法969の2「通訳人の通訳による申述又は自書」と判断した判例紹介2

○「民法969の2「通訳人の通訳による申述又は自書」と判断した判例紹介1」の続きです。


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2 争点1(遺言者の遺言能力の欠如の有無)について
(1) 前記1(1)から(5)までの事実経過等に照らすと,亡Aは,平成23年4月以降の入退院や病状の進行及び本件各社や家族の状況等を踏まえ,①当初は,本件各社の事業承継の観点から,亡Aの財産を長男の原告を中心に相続させる意向を示し,その意向に沿って,債務超過状態にあるb社の株式を全て原告の保有とする本件株式売買契約を経て旧遺言公正証書の作成をしたが,②その後,本件株式交換及び本件株式併合につき,これにより資産超過状態にあるa社の株式も実質的に原告が(完全親会社となるb社の一人株主として)全て保有することとなり,原告が支払義務を負うb社の株式の売買代金が1000分の1に減額されることにつき了承していない等として異議を述べ,原告からは本件各社の取締役からの解任を示唆されるなど,原告との間で争いが生じたことから,a社の顧問弁護士であった被告Y1を通じて遺言公正証書の作り直しをB公証人に依頼して,旧遺言を撤回し,亡Aの有するb社の株式を原告及び被告Y2らに一定の株数ずつ相続させ,それ以外の一切の財産を原告,被告Y2及び被告Y3に各3分の1の割合で相続させる内容の前遺言公正証書を作成し,これに上記異議の内容や原告が被告Y2らと協力して謙虚な気持ちで本件各社の経営等を行うよう願う旨を付記し,③その後,実際に行われることはないものと認識していた本件各社の取締役からの解任及びその登記の手続が原告によって現に行われていることが判明したことから,被告Y1を通じて再び遺言公正証書の作り直しをB公証人に依頼して,b社の株式以外の財産に係る事項につき前遺言を撤回し,上記の株式以外の一切の財産を被告Y2及び被告Y3に各2分の1の割合で相続させる内容の本件遺言公正証書を作成したものと認められ,上記3通の遺言公正証書はいずれも当該各時点における原告との関係等を踏まえた亡Aの意向に基づいて作成されたものと認めるのが相当である。

(2) 他方,前記1(4)イのとおり,前遺言公正証書の作成後,平成24年11月中旬頃以降,同年亡Aは,病状の進行に伴って看護師らに対して不安や寂しさを頻繁に訴えたり,同年10月末に投与を開始されたモルヒネ剤の影響や被告Y2らに対して上記の心境がうまく伝わらないことから,時折つじつまの合わない言葉を発したりするようになり,また,看護師らの診療経過記録中には,(ア)被告Y3が,亡Aはしっかりした人だったので,おむつのままでも平気であるなど,わけが分からなくなってくるのを見るのは家族としてつらいと述べており,同被告がモルヒネ剤の使用を拒む背景には,亡Aのつじつまの合わない言動に対するショックも大きい様子である旨の記載(同年11月13日),(イ)被告Y3が,最近の亡Aはつじつまの合わないことやわけの分からないことをよく言うと述べていた旨の記載(同月14日),(ウ)被告Y2が,本件病院に泊まっていかないのかと同被告に尋ねるなど,亡Aは近頃意味の分からないことをよく言うと述べていた旨及び時折,猫が布団の中にいる等のつじつまの合わない発言がある旨の記載(同年12月7日),(エ)亡Aが早朝のやや興奮気味のときに「理由など聞くも全てのことにうなづきわからず」との記載(同月9日),(オ)ビリルビン値の上昇による意識障害やモルヒネ剤,睡眠剤の使用による不穏,せん妄がある旨の記載(同月10日午後2時45分)等があること(甲11,12,16ないし18)を踏まえると,同年11月中旬頃以降,主にモルヒネ剤の投与の影響により,亡Aについては心身の状態が不安定になるときに判断能力の一定程度の低下をうかがわせる言動がみられるようになったということができる(なお,同年12月5日の診療経過記録には,午前に苦痛を訴えた後に「話がしたい。誰かにきいてもらってもいい。」と述べた後,しばらくして「そんなこと言った?」と述べたとの記載もあるが(甲15),入院治療中の高齢者に通常みられる程度の物忘れの類であるということができ,夕刻以降は落ち着いて過ごし,身の置き所のなさ,不安や現状への疑問,納得できていないこと等を話したとの記載(甲15)に照らしても,これをもって直ちに判断能力の低下の徴表とまで評し得るものとはいい難い。)。

 しかしながら,(a)本件病院における亡Aの主治医であったE医師は,モルヒネ剤等の投薬により記憶力や判断能力への影響を来す可能性はあるが,常に影響があるとは限らず,影響の有無や程度もその日の状況や時間帯等によって変動すると考えられるので,亡Aの主治医の立場で,自らの記憶と診療経過記録の記載から,本件遺言当時における亡Aの判断能力の状態を正確に判定することは困難である旨を証言していること(証人E)に加え,(b)平成24年11月中旬頃から同年12月11日までの看護師らの診療経過記録中には,亡Aのつじつまの合わない言動等に関する上記(ア)ないし(エ)のような記載がある一方で,①それらの大半は,被告Y2らが母娘の会話中の亡Aの精神的に不安定な言動を看護師に伝えたものや寝起き直後の半睡又は不安定な状態で述べられたものとみられる上,②同日(本件遺言の当日)の担当看護師の記録として,それまでの亡Aの入院中の状態につき,1度紙に意味不明なことを書いて伝えようとしたこと以外は,「しっかり書き表わせる」,「発言もしっかりされている」との記載もあること(前記1(4)イ),③上記(エ)の記載のある同月9日の記録中にも,午前に1人でいると落ち着かないが午後に被告Y2らが来院して近くにいると呼吸が安定した旨の記載があり,上記(オ)の記載のある同月10日の記録中にも,午後4時頃には,不安とか寂しいとか思っていて家族に伝えたいが,家族が来ると言葉に出せないので代わりに伝えてくれないかと看護師に対し自らの心情を客観的に説明する内容の話をした旨の記載があること等に照らすと,本件遺言がされた同月11日及びその前の数日の当時,亡Aは,日々の状況や時間帯及び事柄の内容等によって,心身の状態が安定していて一定の事柄につき自らの考えや意思を示し得る判断能力を有していることが言動や態度等から看取される状態にある時と,心身の状態が不安定でそのような判断能力の一定程度の低下をうかがわせる言動がみられる時とが混在する状態にあったものとみるのが相当である。

 そして,長年にわたり本件各社を夫とともに経営してきた亡Aにとって,本件各社の事業と自らの財産を3人の子にどのように承継させるかは当時の最大の関心時といえる事柄であり,前遺言から本件遺言への遺言内容の変更は,本件各社の事業の承継の在り方をめぐり原告との間で争いが生じた上,原告によって亡Aの本件各社の取締役からの解任及びその登記の手続が行われたことを知ったのを受けて,旧遺言から前遺言への変更よりも更に原告の取得する財産を減じ,b社の株式以外の財産の相続割合を各人に3分の1ずつから娘2人に2分の1ずつに変更するという単純な内容のものであって,①同年11月中旬頃及び同月30日の時点で,a社の顧問弁護士であった被告Y1が亡Aの容態の安定している時に亡Aから上記変更の意思を伝えられて確認し(前記1(4)ウ),②同年12月11日の時点で,B公証人が,通例の手続の流れに従い,上記のような遺言内容の単純さに加え,亡Aの受け答えの態度,表情及び言葉,遺言内容の申述及び読み聞かせの各確認の全過程における亡Aの態度,聞き取った言葉等を総合し,本件遺言について亡Aに遺言能力があると判断し,現に上記の遺言内容の申述を通訳人の通訳による補助を得て確認していること(前記1(4)エ)に照らすと,本件遺言は,亡Aの心身の状態が安定していて一定の事柄につき自らの考えや意思を示し得る判断能力を有していることが言動や態度等から看取される状態にある時にそれを示し得る事柄について行われたものと認めるのが相当であり,この判断を覆すに足りる事情を認めるに足りる的確な証拠はない。

(3) 原告は,前記第2の3(1)のとおり,本件遺言は遺言者の意思能力を欠いた状態で作成されたものであり,遺言者の真意に基づくものではない旨主張するが,前記1(1)から(5)までの事実経過等を踏まえて上記(1)及び(2)において認定し説示したところによれば,原告の上記主張は採用することができない(原告の供述(甲31,原告本人)の内容も,原告が,亡Aの平成24年8月23日の入院後,原告と会うことが亡Aのストレスになるとの理由で面会を制限され,平成25年1月29日の死亡に至るまで亡Aと一度も面会をしておらず,原告の影響を排除して被告Y2らの都合の良いように作成されたのが本件遺言公正証書であるように思える旨の推測を述べるものにとどまり,また,上記入院の前後を通じて亡Aが前記1(3)ア,イ及び(4)ウ(上記(1)②及び③)の本件各社に係る争いの経緯につき原告に対し怒っていたことを認識していた旨を述べるなど,上記の判断を左右するに足りるものとはいえず,他に上記の判断を左右するに足りる的確な証拠はない。)。

(4) したがって,本件遺言は,遺言者の遺言能力を欠くものということはできない。

3 争点2(通訳による申述に係る民法969条の2第1項違反の有無)について
(1)
ア 公正証書遺言は,遺言書の作成に公証人が関与することにより法律に適合した遺言の内容が確保され,公証役場で公正証書を保管するため紛失や改ざんのおそれがなく,遺言書について家庭裁判所の検認の手続を要しない等の利点があるところ,公正証書遺言の方式の特則を定める民法969条の2は,遺言者の口述(口授)を公証人が聴取して筆記するという同法969条所定の手続が遺言者の言語機能障害や聴覚障害等のために困難である場合でも,遺言内容の正確性の確認が担保される方法である通訳人の通訳による申述又は自書をもって口述(口授)に代えることにより,公証人の関与の下での公正証書遺言の利用を可能にするため,平成11年法律第149号によって新設された規定である。このような立法趣旨に鑑み,民法969条の2第1項にいう「口がきけない」場合には,言語機能障害のために発話不能である場合のみならず,聴覚障害や老齢等のために発話が不明瞭で,発話の相手方にとって聴取が困難な場合も含まれると解するのが相当であり,本件のように,老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人口呼吸器が装着されたことにより,声がかすれて小さくなるために発話が不明瞭で,発話の相手方にとって聴取が困難な場合も,これに含まれるものというべきである。

イ そして,上記の立法趣旨及び「口がきけない」場合の意義等に照らせば,民法969条の2第1項にいう「通訳人の通訳」は,遺言内容の正確性の確認が担保される方法である限り,手話通訳のほか,読話(口話),触読,指点字等の多様な意思伝達方法が含まれるものと解され,同項の法文上も通訳の方法や通訳人の資格に何ら限定は付されていない以上,本件のように,発話者が老齢で肺疾患や呼吸不全に係る医療措置として咽喉部に人口呼吸器が装着されたことにより,声がかすれて小さくなるため発話が不明瞭で,公証人にとって聴取が困難であり,自ら聞き取ったと思う内容の正確性に疑義がありその確認に慎重を期する必要がある場合に,頻繁に発話者を見舞って会話をしていた経験から,聞き慣れた同人の声質や話し方等を判別することにより発話の内容を理解することができる者が,その判別により理解した内容を公証人に伝え,公証人が自ら聞き取ったと思う内容と符合するかを確認するという方法も,同項にいう「通訳人の通訳」の範疇に含まれるものと解するのが相当である。

(2)
ア 原告は,前記第2の3(2)のとおり,民法969条の2第1項にいう「口がきけない」場合の意義に関し,言語機能障害については,言語能力に完全な障害があって言葉による意思疎通を図ることができない場合に限定され,部分的に発話できない場合については,遺言の趣旨が理解できない程度の発話しかできない場合に限定される旨主張するが,上記(1)ア及びイにおいてみた同条の立法趣旨及び通訳方法の多様性等に照らすと,所論のように殊更に狭義に限定して解釈すべき理由は見当たらず,原告の上記主張は採用することができない。

イ なお,原告は,前記第2の3(2)のとおり,「口がきけない」場合の範囲を緩やかに広げると,通訳人の欠格事由の定めがない以上,近親者が通訳人の身分で公正証書遺言に立ち会えることになり,証人及び立会人の欠格事由の規定の趣旨に反するとも主張するが,後記4(1)アのとおり,民法969条の2第1項の通訳人について証人や立会人に係る同法974条各号のような欠格事由の規定が設けられていないのは,通訳人の能力として求められる意思伝達方法の特質や多様性等(証人や立会人との差異)を考慮したことによるものと解され,所論のように「口がきけない」場合の範囲を殊更に狭義に限定して解釈しないからといって,証人や立会人に係る欠格事由の規定の趣旨に抵触するものとはいえず,原告の上記主張も採用の限りではない。

(3) したがって,本件遺言は,通訳による申述に係る方式につき,民法969条の2第1項に違反するものということはできない。

4 争点3(通訳人の資格に係る民法974条2号等違反の有無)について
(1)
ア 民法969条の2第1項の通訳人については,証人や立会人に係る同法974条各号のような欠格事由の規定が設けられていないところ,これは,証人や立会人の場合と異なり,前記3(1)イのような通訳人の能力として求められる意思伝達方法の特質や多様性等に照らすと,仮に同条各号所定の者らを一律に通訳人から排除した場合には,当該遺言者の通訳に適する意思伝達方法の能力を備えた適格者を確保し得ない事態の生ずる蓋然性が想定され,前示の同法969条の2の立法趣旨に沿わない結果の招来を避け難い一方で,そのような能力を備えた者の中から当該者の属性や人的関係も踏まえた適格性を公証人が個別に判断して通訳人の人選及び通訳の実施の適否を決することによって,遺言内容の正確性の確認を担保し得ることを踏まえたものと解される。

したがって,民法969条の2第1項の通訳人について,証人及び立会人に関する同法974条各号の規定が類推適用されるものではなく,通訳人の通訳による公正証書遺言が無効であるか否かは,公証人による当該通訳を介しての遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあるため公証人の筆記の内容が遺言者の真意に基づかないものといえるか否かという個別の判断によるべきものと解するのが相当である。


イ また,本件において,Fは,前記1(4)アのとおり,推定相続人である被告Y2の交際相手であり,本件遺言の当時に同被告との間で婚姻関係と同視し得るような関係(原告の主張に係る婚約関係ないし事実婚状態)にあったことを認めるに足りる的確な証拠はなく(Fは,その陳述書(乙ロ3)及び証言において,平成23年春頃から被告Y2と交際しているが結婚の約束まではしていない旨を述べており,弁論の全趣旨によれば住所を異にすることが認められる。),推定相続人の配偶者と同視し得る地位にあるとはいえない以上,推定相続人との間に証人及び立会人の欠格事由に相当する親族関係があるとはいえないから,民法974条2号の類推適用をいう原告の前記第2の3(3)の主張は,その前提を欠くものであって,いずれにしても採用の限りではない。

ウ そして,前記1(4)ア及びエの認定事実によれば,Fは,本件遺言の当時,推定相続人である被告Y2ら以外に前記3(1)イのような亡Aの通訳に適する意思伝達方法の能力を備えた唯一の者であったものと認められ,本件遺言公正証書の作成の際,その能力に適した意思伝達方法でその通訳を行い,B公証人も,その通訳内容につき自ら聞き取ったと思う内容との符合を検証して適切に確認を行ったものといえるから,本件遺言において同公証人がFに通訳人として通訳をさせたことにつき,遺言内容の正確性の確認に欠けるところがあったとは認められず,これを欠いたとする原告の前記第2の3(3)の主張は採用することができない。

(2) したがって,本件遺言は,通訳人の資格に係る方式につき,民法974条2号及び969条の2第1項に違反するものということはできない。

5 小括
 以上によれば,本件遺言が無効であるとは認められないから,原告と被告らとの間において本件遺言が無効であることの確認を求める原告の被告らに対する請求は理由がなく,また,本件遺言に基づいて被告Y2らが亡Aの死亡後に同人の預貯金のうち各2分の1ずつを払い戻したことについて不当利得が成立するとは認められないから,本件預貯金相当額の返還及びその遅延損害金の支払を求める原告の被告Y2らに対する請求も理由がない。

第4 結論
 以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。
 (裁判官 岩井伸晃)

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