小松法律事務所

遺留分減殺請求で葬儀費用は債務として控除できないとした判例紹介1


○遺留分減殺請求をされている方から、数百万円支出した葬儀費用を遺留分減殺対象財産から債務として控除できませんかと質問を受けました。葬儀費用は相続税の申告においては債務として控除されますが、以下の民法第885条の解釈として葬儀費用は相続財産に関する費用に当たるとしても、同条2項により、遺留分権利者の減殺請求に対しては、債務として控除はできないとされているのが一般の解釈のようですと回答しました。

第885条(相続財産に関する費用)
 相続財産に関する費用は、その財産の中から支弁する。ただし、相続人の過失によるものは、この限りでない。
2 前項の費用は、遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって支弁することを要しない。


○遺留分減殺請求と葬儀費用控除の問題を含む判例を探したところ、葬儀費用の支払義務は葬儀を主催した者に帰属し、相続人の負担に帰すべきものではないから、葬儀費用額は被相続人遺産から控除されないと認定した平成25年4月25日東京地裁判決(ウエストロージャパン)がありましたので、該当部分を紹介します。葬儀費用支払義務喪主に帰属し相続人が負担する債務ではないとの理由で遺留分減殺対象財産から控除できないとしたもので、民法第885条2項を理由に控除できないとしたものではありません。

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主   文
1 被告Y1は,原告X1に対し,51万2648円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告Y1は,原告X2に対し,34万9199円及びうち26万1949円に対する平成24年5月27日から,うち8万2750円に対する平成22年2月15日から各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告Y1は,原告X3に対し,26万1949円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告Y2は,原告X1に対し,51万2648円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 被告Y2は,原告X2に対し,26万1949円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
6 被告Y2は,原告X3に対し,26万1949円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
7 原告らの被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。
9 この判決は第1項ないし第6項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求

1 被告Y1は,原告X1に対し,104万2672円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 被告Y1は,原告X2に対し,60万3836円及びうち52万1086円に対する平成24年5月27日から,うち8万2750円に対する平成22年2月15日から各支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
3 被告Y1は,原告X3に対し,52万1086円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
4 被告Y2は,原告X1に対し,104万2672円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
5 被告Y2は,原告X2に対し,52万1086円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
6 被告Y2は,原告X3に対し,52万1086円及びこれに対する平成24年5月27日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2 事案の概要
 本件は,いずれも遺留分減殺請求として,被告Y1(以下「被告Y1」という。)及び被告Y2(以下「被告Y2」という。)に対し,原告X1(以下「原告X1」という。)が,それぞれ104万2672円,原告X2(以下「原告X2」という。)及び原告X3(以下「原告X3」という。)が,それぞれ52万1086円ずつ及びこれらに対する訴状送達の日の翌日(記録によれば被告らにつきいずれも平成24年5月27日と認められる。)から支払済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の各支払を,原告X2が被告Y1に対し,不法行為(遺産である預金債権の無断払戻)に基づく損害賠償請求として8万2750円及びこれに対する不法行為の日である平成22年2月15日から支払済みまで民法所定年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めるものである。

         (中略)

(4) 葬儀費用は訴外Aの遺産から控除されるか(争点4)
(被告らの主張)
 被告Y1は,亡Aの葬儀費用として合計28万7750円を支払った。
 かかる葬儀費用は,相続財産に関する費用(民法885条1項)として,訴外Aの遺産から控除される。
(原告らの主張)
 被告Y1が同人の財産を原資として葬儀費用を支払ったことは否認し,その余は争う。被告Y1は,江戸川区に申請して葬祭費7万円の支払を受けている。

         (中略)

第3 裁判所の判断

         (中略)

(4) 相続債務等(葬儀費用,争点4)
 証拠(乙4の2ないし4の5)によれば,被告Y1は,訴外Aの葬儀を主催したと認められる。葬儀は,相続財産に関わるものでないから,葬儀費用は相続財産に関する費用(民法885条1項)とはいえない。葬儀費用の支払義務は,これを主催した者に帰属し,相続人の負担に帰すべき債務ではないから,被告Y1が,訴外Aの葬儀費用を支払ったとしても,それは自らの債務を履行したに過ぎない。
 よって,争点4についての被告らの主張は理由がなく,葬儀費用額は訴外Aの遺産から控除されない。