小松法律事務所

DNA鑑定99.999998%父子でなくても法律上は父子とした最高裁判決紹介1


○平成26年7月17日、父子関係に関する以下の3条文について、3件の重要最高裁判決が出されました。そのうちの平成25年(受)第233号 親子関係不存在確認請求事件平成26年7月17日 第一小法廷判決全文を紹介します。

民法
第772条(嫡出の推定)
 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。
2  婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
第774条(嫡出の否認)
 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。
第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間)
 嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない。


○普通に婚姻継続中に生まれた子を、夫A男が自分の子と確信していても、実はB男の子だったと言う例が、結構ありそうな昨今ですが、この最高裁事案もこのような事案です。A男が死ぬまで真相がバレなければ何の問題もないのですが、本件は、その後A男と妻C女が離婚し、C女はB男と同居して、真相を法律上も正そうとして、A男に対し親子関係不存在確認の訴えを出しました。DNA鑑定結果ではB男が父の確率99.99%だったこともあり、地裁・高裁いずれも、認容したのですが、最高裁でひっくり返されました。

○この結論に対し、棚村政行・早稲田大法学学術院教授は、「最高裁判決は、DNA型鑑定偏重の傾向に警鐘を鳴らしたという意味では評価できるが、子の現在の生活環境が考慮されていない点は大いに疑問だ。鑑定技術や生殖補助医療などが進歩し、家族形態が多様化する中、明治時代にできた親子関係をめぐる民法のルールは現状に合わなくなっている。司法判断による解決は限界を超えており、子の視点で親子関係を決めるための民法改正やDNA型鑑定実施のガイドライン制定を早急に進めるべきだ。」としています。

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主  文
原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。
本件訴えを却下する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理  由
上告代理人○○○○、同○○○○の上告受理申立て理由について
1 本件は、戸籍上上告人の嫡出子とされている被上告人が上告人に対して提起した親子関係不存在の確認の訴えである。

2 記録によって認められる事実関係の概要等は、次のとおりである。
(1) 上告人と甲は、平成16年○月○日、婚姻の届出をした。
上告人は、平成19年○月から単身赴任をしていたが、単身赴任中も甲の居住する自宅に月に2、3回程度帰っていた。

(2) 甲は、平成19年○月頃、乙と知り合い、乙と親密に交際するようになった。しかし、甲は、その頃も上告人と共に旅行をするなどし、上告人と甲の夫婦の実態が失われることはなかった。

(3) 上告人は、平成20年○月○日頃、甲から妊娠している旨の報告を受けた。
甲は、平成21年○月○日、被上告人を出産した。上告人は、被上告人のために保育園の行事に参加するなどして、被上告人を監護養育していた。

(4) 上告人は、平成23年○月頃、甲と乙の交際を知った。甲は、同年○月頃、被上告人を連れて自宅を出て上告人と別居し、同年○月頃から、被上告人と共に、乙及びその前妻との間の子2人と同居している。被上告人は、乙を「お父さん」と呼んで、順調に成長している。

(5) 被上告人側で平成23年○月に私的に行ったDNA検査の結果によれば、乙が被上告人の生物学上の父である確率は99.99%であるとされている。

(6) 甲は、平成23年12月、被上告人の法定代理人として、本件訴えを提起した。

(7) 甲は、上告人に対し、平成24年4月頃に離婚調停を申し立てたが、同年5月に不成立となり、同年6月に離婚訴訟を提起した。

3 原審は、次のとおり判断して本件訴えの適法性を肯定し、被上告人の請求を認容すべきものとした。
 本件においては、上記のDNA検査の結果によれば、被上告人が上告人の生物学上の子でないことは明白である。また、上告人も被上告人の生物学上の父が乙であること自体について積極的に争っていないことや、現在、被上告人が、甲と乙に育てられ、順調に成長していることに照らせば、被上告人には民法772条の嫡出推定が及ばない特段の事情があるものと認められる。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 民法772条により嫡出の推定を受ける子につきその嫡出であることを否認するためには、夫からの嫡出否認の訴えによるべきものとし、かつ、同訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは、身分関係の法的安定を保持する上から合理性を有するものということができる(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁、最高裁平成8年(オ)第380号同12年3月14日第三小法廷判決・裁判集民事197号375頁参照)。そして、夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって、同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。このように解すると、法律上の父子関係が生物学上の父子関係と一致しない場合が生ずることになるが、同条及び774条から778条までの規定はこのような不一致が生ずることをも容認しているものと解される。

 もっとも、民法772条2項所定の期間内に妻が出産した子について、妻がその子を懐胎すべき時期に、既に夫婦が事実上の離婚をして夫婦の実態が失われ、又は遠隔地に居住して、夫婦間に性的関係を持つ機会がなかったことが明らかであるなどの事情が存在する場合には、上記子は実質的には同条の推定を受けない嫡出子に当たるということができるから、同法774条以下の規定にかかわらず、親子関係不存在確認の訴えをもって夫と上記子との間の父子関係の存否を争うことができると解するのが相当である(最高裁昭和43年(オ)第1184号同44年5月29日第一小法廷判決・民集23巻6号1064頁、最高裁平成7年(オ)第2178号同10年8月31日第二小法廷判決・裁判集民事189号497頁、前掲最高裁平成12年3月14日第三小法廷判決参照)。

 しかしながら、本件においては、甲が被上告人を懐胎した時期に上記のような事情があったとは認められず、他に本件訴えの適法性を肯定すべき事情も認められない。

5 以上によれば、本件訴えは不適法なものであるといわざるを得ず、これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、第1審判決を取り消し、本件訴えを却下すべきである。

よって、裁判官金築誠志、同白木勇の各反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官櫻井龍子、同山浦善樹の各補足意見がある。