小松法律事務所

子の利益に必要有りとして特別養子縁組申立を認めた高裁決定紹介


○「子の利益に必要無しとして特別養子縁組申立を却下した家裁審判紹介」の続きで、その抗告審平成27年9月17日大阪高裁決定(判タ1423号189頁)全文を紹介します。

○申立人ら(抗告人)が、未成年者Cを申立人らの特別養子とするとの審判を求めたところ、申立てが却下されたため、申立人らが抗告しましたが、高裁決定は、本件の場合、実母が未成年者を監護することは著しく困難であると認められる上、申立人両名は養親としての適格性を有し、申立人両名と未成年者との適合性にも問題がないことが認められるから、未成年者の健全な育成のために特別養子縁組を成立させて申立人両名に未成年者を監護養育させるのが相当であるというべきであり、未成年者を申立人両名の特別養子とすることが未成年者の利益のために特に必要があると認められ、特別養子縁組を成立させるべき要件を満たしているとして、原審判を取り消し、Cを抗告人両名の特別養子とすることを認めました。極めて妥当な判断です。

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主   文
1 原審判を取り消す。
2 Cを抗告人両名の特別養子とする。
3 手続費用は,第1,2審とも,抗告人両名の負担とする。

理   由
第1 抗告の趣旨
 主文と同旨

第2 事案の概要
1 事案の要旨

 本件は,抗告人両名がC(以下「未成年者」という。)を抗告人両名の特別養子とすることを求めた事案である(平成26年○月○日審判申立て)。
 原審は、平成27年1月30日,本件申立てについては,民法817条の7が定める要件を欠いていることが明らかであるとして,抗告人両名の本件申立てを却下する旨の審判をした。 
 抗告人両名は,これを不服として,即時抗告した。

2 抗告理由の要旨
 抗告人両名は,平成26年○月○日より未成年者を引き取り養育しているが,これは,D(以下「実母」という。)が未成年者で就業していないため,未成年者を養育監護することが困難な状況にあるからであり,未成年者は認知もされていないことからして,民法817条の7が定めるように「父母による養子となる者の監護が著しく困難」な状況にあることは明らかである。

第3 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,次の事実を認めることができる。
(1)抗告人両名は,平成19年○月○日に婚姻した,いずれも現在25歳以上の夫婦であるが,実子に恵まれなかった。

(2)実母は,平成25年○月にFとの交際中に未成年者の妊娠が分かり,産みたいと考えたが,双方の両親から反対されると考え,同年の冬になって,養子となる者の親権代行者(以下「祖母」という。)に妊娠の事実を伝えた。その頃,実母はFと別れていたが,未成年者を育てるために復縁し,平成26年○月から同居生活を始めたものの,同年○月にはFと別れた。このため,実母は,未成年者を1人で育てることはできないと考え,他の人に預けるしかないと思うに至った。

(3)抗告人B(以下「抗告人妻」という。)は祖母と従姉妹の関係(抗告人妻の母と祖母の母とが姉妹)にあるところ,抗告人両名は,祖母の母から抗告人妻の母を通じて,未成年者を引き取ってもらえないかという相談を持ちかけられた。抗告人両名は,突然の申出に戸惑ったが,話し合った結果,未成年者を引き取ることにした。

(4)実母は,平成26年○月○日に17歳で未成年者を出産し,未成年者が産院から退院した同月○日から抗告人妻が祖母の母宅で未成年者と一緒に過ごした後,同年○月○日から,抗告人両名が肩書住所地において未成年者の監護を行うようになった。

(5)実母は,未成年者を出産後1度も未成年者と会っておらず,未成年者は認知を受けていない。実母は,健康状態に問題はなく,通信制高校を中退後,平成26年○月から飲食店で週3日程度稼働しているが,経済的に余裕はなく,祖母等にも経済的な余裕がない。実母及び祖母は,未成年者が特別養子縁組することに同意している。

(6)抗告人両名は心身ともに健康であり,経済的にも安定しており,未成年者を監護する環境も整備されている。抗告人両名の監護状況を本件申立て後6か月以上の期間観察した結果によれば,抗告人両名は未成年者を愛情深く監護しており,未成年者も抗告人両名に懐き,順調な成長を遂げていることが認められる。

(7)抗告人両名は,平成26年○月○日,原審裁判所に,未成年者を抗告人両名の特別養子とするとの審判を求める本件申立てをした。

(8)原審裁判所は,平成27年1月30日,抗告人両名の本件申立てを却下する旨の審判をした。

(9)抗告人両名は,これを不服として,平成27年○月○日,即時抗告した。

2 1で認定した事実によれば,本件の場合,実母が未成年者を監護することは著しく困難であると認められる上,抗告人両名は養親としての適格性を有し,抗告人両名と未成年者との適合性にも問題がないことが認められるから,未成年者の健全な育成のために特別養子縁組を成立させて抗告人両名に未成年者を監護養育させるのが相当であるというべきであり,未成年者を抗告人両名の特別養子とすることが未成年者の利益のために特に必要があると認められる。

 したがって,本件の場合には,特別養子縁組を成立させるべき要件を全て満たしていると認めることができる。


3 以上によれば,抗告人両名の本件申立ては認容すべきであり,本件申立てを却下した原審判は相当でないから,原審判を取消し,未成年者を抗告人両名の特別養子とすることとして,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 角隆博 裁判官 坂倉充信 裁判官 横溝邦彦)