夫の自殺に伴う医療費は相続放棄により支払義務を免れるか
民法第939条(相続の放棄の効力)
相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。
○問題は夫の医療費が、次の日常家事債務に該当するかどうかです。
民法第761条(日常の家事に関する債務の連帯責任)
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
○ネット検索をすると相続放棄をした妻の夫の医療費支払義務については、放棄によって相続人ではなくなるので支払義務もなくなると解説するサイトと、医療費は前記日常家事債務に該当するので相続放棄をしても妻として連帯支払義務を負っているので医療費支払義務は免れないとする解説するサイトに分かれています。
○問題は、自殺した夫の自殺の際に緊急搬送された医療機関に対する医療費が、「日常家事債務」に該当するかどうかです。この問題について判断した判決は現時点では見つかっていません。日常家事債務は、未成熟子を含む夫婦共同生活に必要とされる一切の債務で、家族の食料・光熱・衣類などの買い入れ、保険・娯楽・医療、子どもの養育・教育などに関する行為、家具・調度品の購入などが含まれると解説されており、医療費も含まれるようにも思えます。
○しかし、「夫婦共同生活に必要」との限定がついており、自殺は、夫婦共同生活に必要なものとは、到底、言えません。共同生活継続時における医療費が日常家事債務に該当するとしても、自殺によって発生した医療費は、日常家事債務には含まれないと解釈すべきです。従って、妻は相続放棄によって、夫の自殺に伴って発生した医療費は、支払義務を負わないが結論になります。