再転相続人(おいの母)としての相続放棄受理申述を却下した家裁審判紹介
○申述人は、平成16年に死亡した被相続人B(第一次相続)の兄Hの妻ですが、Hは、被相続人Bの相続につき承認又は放棄をしないで、平成28年*月*日に死亡しました。この場合、申述人は被相続人Bの再転相続人です。申述人は、被相続人Bに債務があり、申述人が被相続人Bの相続人となっていることを令和5年2月14日に知り、被相続人Bの相続財産が債務超過であることから、被相続人Bの再転相続人として、Hとの子A・Dと共に相続放棄の申述をし、受理されました。
○その後、Hの相続人であるIの第1順位の相続人E・F・Gが被相続人Bについて相続放棄の申述をし、受理されたことを令和5年5月19日に知ったことから、Iの第2順位の相続人である申述人(被相続人Bの甥Iの母)が、改めて被相続人Bについて再転相続人として相続放棄の申述をしました。
○IはHの相続人として、Bの相続放棄申述をしないまま令和5年死去し、その相続人は妻Eと子F,Gで、E・F・Gは、被相続人Bの再転相続人として,被相続人Bの第1次相続につき相続放棄の申述受理の申立てをし,いずれも受理されました。
○事案を図示すると以下の通りです。
被相続人B-Bの兄H = 妻(相続放棄申述人)
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Hと妻の間の子A、I、D
Iの相続人はその妻E、子F・G
○この場合の、相続放棄申述について、申述人、A及びDは、被相続人Bの相続人亡Hの再転相続人としてHの選択権を行使し、第1次相続につき相続放棄の申述受理の申立てをし、いずれも受理され、Iについても、その相続人であるE、子F・Gが、被相続人Bの相続人亡Hの再転相続人として同様にHの選択権を行使し、第1次相続につき相続放棄の申述受理の申立てをし、いずれも受理され、この結果、Hは初めから第1次相続に係る相続人でなかったことになり、申述人を含むHの相続人らが被相続人Bの財産に属した権利又は義務を承継することもなく、申述人は、Iの母でありIの相続人の地位にあったとしても、申述人の主張には理由がなく、重ねて相続を放棄する必要は認められないとして、申述人の相続放棄の申述を却下した令和5年8月8日東京家裁立川支部審判(判タ1532号78頁・判時2624号42頁)全文を紹介します。
○この審判は、一見筋が通っていると思ったのですが、東京高裁で覆されており、別コンテンツで紹介します。
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主 文
1 申述人の相続放棄の申述を却下する。
2 手続費用は申述人の負担とする。
理 由
第1 申述の趣旨及び理由
1 申述の趣旨
申述人は,被相続人Bの相続の放棄をする。
2 申述の理由
申述人は,被相続人Bの兄H(以下「H」という。)の妻である。Hは,被相続人Bの相続につき承認又は放棄をしないで,平成28年*月*日に死亡した。申述人は,被相続人Bに債務があり,申述人が被相続人Bの相続人となっていることを令和5年2月14日に知り,被相続人Bの相続財産が債務超過であることから,被相続人Bの再転相続人として,相続放棄の申述をし,受理された。
その後,Hの相続人であるI(以下「I」という。)の第1順位の相続人が被相続人Bについて相続放棄の申述をし,受理されたことを令和5年5月19日に知ったことから,Iの第2順位の相続人である申述人は改めて被相続人Bについて再転相続人として相続放棄の申述をする。
第2 当裁判所の判断
1 一件記録によれば,以下の事実が認められる。
(1)被相続人Bは,平成16年*月*日に死亡し,相続(以下「第1次相続」という。)が開始した。被相続人Bに配偶者及び子はなく,直系尊属は既に死亡していたため,兄であるHが相続人となった。
(2)Hは,第1次相続につき承認又は放棄をしないで,平成28年*月*日に死亡し,Hの相続(以下「第2次相続」という。)が開始した。Hの相続人は,妻である申述人並びに子であるA(以下「A」という。),I及びD(以下「D」という。)のみであった。
(3)申述人は,令和5年2月14日に,被相続人Bが居住していたマンションの管理組合(以下「債権者」という。)から,被相続人Bに債務があり,申述人が被相続人Bの相続人となっている旨の通知を受けた。申述人は,A及びDとともに,被相続人Bの再転相続人として,第1次相続につき相続放棄の申述受理の申立てをし,いずれも受理された。
(4)Iは,申述人,A及びDとは異なり,第1次相続につき承認又は放棄をしないで令和5年*月*日に死亡し,その相続(以下「第3次相続」という。)が開始した。Iの相続人は,妻であるE(以下「E」という。),子であるF(以下「F」という。)及びG(以下「G」という。)のみであったところ,E,F及びGは,被相続人Bの再転相続人として,第1次相続につき相続放棄の申述受理の申立てをし,いずれも受理された。
(6)申述人は,Iの母でありIの相続人の地位にあることから,その地位に基づいて改めて第1次相続につき相続の放棄をする必要があると考え,本件申述受理の申立てをした。
2 判断
(1)前記1の認定事実によれば,被相続人Bについての第1次相続の相続人であるHは,相続の承認又は放棄をしないで死亡しており,このような場合に,Hの相続人である申述人,A,I及びDは,第2次相続に係る自らの選択権のほか,第1次相続に係る相続の放棄,承認等の選択権を行使する前のHの地位も承継しており,第1次相続に係るHの選択権及び第2次相続に係る自らの選択権を併有するものと解される。
また,Iがこのような各選択権を有する状況で死亡したことから,Iの相続人であるE,F及びGは,第1次相続に係るHの選択権,第2次相続に係るIの選択権及び第3次相続に係る自らの選択権を併有するものと解される。
(2)相続の放棄をした者は,その相続に関しては,初めから相続人とならなかったものとみなされる(民法939条)。
前記1の認定事実によれば,申述人,A及びDは,被相続人Bの相続人亡Hの再転相続人としてHの選択権を行使し,第1次相続につき相続放棄の申述受理の申立てをし,いずれも受理され、Iについても,その相続人であるE,F及びGにおいて,被相続人Bの相続人亡Hの再転相続人として同様にHの選択権を行使し,第1次相続につき相続放棄の申述受理の申立てをし,いずれも受理されたことが認められる。この結果,Hは初めから第1次相続に係る相続人でなかったことになるものと解され,ひいては,申述人を含むHの相続人らが被相続人Bの財産に属した権利又は義務を承継することもない。
(3)申述人は,Iの母でありIの相続人の地位にあることから,その地位に基づいて改めて第1次相続につき相続の放棄をする必要があるとするが,前記(2)のとおりの本件の法律関係に照らせば,申述人の主張には理由がなく,重ねて相続を放棄する必要は認められない。
以上によれば,本件申述は理由がないから却下することとして,主文のとおり審判する。
裁判官 小林愛子