小松法律事務所

遺産共有も共有で民法第258条が適用されるとした地裁判決判決紹介


○「遺産共有も共有で分割は現物分割を原則とした最高裁判決紹介」の続きで、その第一審の前橋地方裁判所判決(最高裁判所民事判例集9巻6号801頁、判決日不明)を紹介します。

○本件不動産の共有者として持分2分の1を有する原告が、同じく持分2分の1を有する被告に対して、本件不動産につき2分の1の持分による現物分割、もしくはその競売による分割を求めました。

○被告は、本件不動産の分割方法は原告に必要な家屋だけを農業に従事する被告に付与し、その鑑定価格の半額を被告より原告に提供するような分割方法が適当である主張しましたが、判決は、被告の主張を斥け、本件においては、共有物分割に関する民法258条が適用されるのは当然であるとの原告の主張を容れて、本件不動産の一括競売を命じ、また、原告に対し、被告先代が出捐した必要費の半額の支払いを被告に対してすることを命じました。

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主   文
別紙目録記載の不動産につき一括競売を命ずる。
其の売得金より競売費用を控除した部分を原告被告に各2分の1宛分配すべく、原告は自己に帰すべき金員の中より金1200円を被告に支払うべし。
原告のその余の請求は之を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。

事   実
原告訴訟代理人は、原告と被告との共有に係る別紙目録記載の不動産につき各2分の1の持分による現物分割、若しくは其の競売による分割を命ずる。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、其の請求原因として、別紙目録記載の不動産は元訴外角田Aの所有であつたところ、昭和12年8月13日同人の死亡により訴外角田Cと被告の先代養母角田Dに於て各2分の1の持分による遺産相続をなし、其の後被告に於て昭和18年3月10日右Dの死亡により家督相続をなし其の持分を承継し、又右Cの亡弟の妻たる原告は同年9月11日右Cから其の持分の贈与を受けその登記をしたので本件不動産は結局原被告各2分の1の持分による共有となつたのである。

然るに之れより先右Cと被告間に於て同年4月28日より同年7月9日に亘り群馬県利根郡利南村村長Eの仲介により本件不動産の分割交渉を重ねたが、協議調わず、其の後更に被告より右Cに対し前橋地方裁判所に戦時特別調停の申立があつたが之れ又同年9月8日不調に終つたのである。

其の後右Cより持分の贈与を受けた原告は本件不動産の分割に関して直接被告と交渉を重ねたが,同月24日之れ又不成立となり其の間現在に至るも被告は依然として本件不動産を占有し、裕福なる生活を続けている反面、原告は昭和19年中東京都より群馬県利根郡沼田町に疎開し、現在同町大字沼田九番地のささやかな借家に21才と18才の娘と共に居住する52才の未亡人で無職無資産僅かに娘のミシン内職等によつて辛うじて生活をして居る赤貧者であつて、本件不動産の早急なる分割を求むるものであり、其の現物分割の出来ないか又は分割により著しく其の価格を損ずる虞あるときは、其の競売を命ぜられる様本訴に及んだのであると陳述し、被告の主張に対し、遺産分割の場合新民法附則第32条の規定により新民法第906条の規定の準用あるべきは当然であるが、現物分割か換価分割かの原則に関しては何等除外規定がない以上共有物分割に関する民法第258条の適用あるは当然である。

又別紙目録(五)の居宅の屋根を被告先代が昭和14年中板葺から万年瓦に葺替えたことは認めるが、当時の費用は金1050円が相当である、其の他の家屋修繕の点は不知であるが、之れは所謂時機に遅れた防禦方法であるから民事訴訟法第139条により却下さるべきである、被告方は従来本件不動産を利用し農業を家業として来たこと、被告の世帯員が被告主張の通りであること及び原告は殆ど農業に従事したことなく多年東京都に居住していたものであることは認める。その余の被告主張事実は否認すると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却するとの判決を求め、其の答弁として、被告が裕福であること、原告が東京都より沼田町に疎開して来たこと及び原告とその世帯員の生活状態の点を除き原告主張事実は認める。抑々角田家は地方に於ける名門に属する家柄にして其の家屋敷等の財産は子孫相承けて之を永遠に伝えなければならないものであり、被告は角田家の正統相続人にして、本来ならば本件宅地建物の如きは当然被告の所有となるべきものであるが、偶々被告の祖母角田Aが隠居財産を留保しその名義になつて居た為めに、同人の死亡により遺産相続が開始した結果本件不動産は結局に於て、原被告各2分の1の持分による共有となつたが、之れは右角田Aの本意ではなく婦女子の無知により本件の如き結果に立至らしめたものである。原告の持分の前主角田Cも之を十分知つて居たのであるが、原告は手続の不備を奇貨として、日本の慣習を無視し本訴の如き事を構えるに至つたのである。

被告としては資産の続く限り本件宅地建物を永く角田家に存続させようとするものである。従つて本件不動産の分割に際しても新民法附則第32条の規定により新民法第906条の規定を準用し、被告の立場よりは寧ろ角田家の立場を考察して分割方法を決定すべきであり、同法第258条第2項を適用すべきではなく、又被告方は従来本件不動産を利用して農業を家業として来たものであり、其の家族としては妻と子供12人と長男の嫁との合計15人家族である、之れに対して原告は殆ど農業に従事したこともなく東京都に住んで居たものである。

以上の様な諸情況を彼我対照するときは、本件不動産の分割方法は農業に必要なる家屋丈を農業に従事する被告に付与し、其の鑑定価格の半額を被告より原告に提供する様な分割方法が適当であり、又被告の先代又は被告は本件建物につき次の如き必要費を支出している。即ち昭和14年中別紙目録(五)の居宅の屋根が板葺であつたのを万年瓦に葺替えた費用として金2500円、同年本件建物の庇屋根替等の費用として金450円、昭和12年より昭和18年に至る本件建物のペンキ塗替費として金100円、同期間に亘る別紙目録(七)の物置の屋根替費として金300円、昭和16年中本件建物の板羽目雨戸障子等の修繕費として金300円、翌17年中戸袋勝手等の修繕費として金500円、合計金4150円の必要費を支出しているから、民法第259条の規定により目的物の価格中より其の半額の償還を求める、と述べた。(立証省略)