小松法律事務所

会社所有不動産評価に収益価額を算出基礎とした高裁決定紹介


○「遺産たる有限会社持分権評価を総資産額基準とした家裁審判紹介」の続きで、建物賃貸を目的とする会社の株式の評価に当たり、その前提となる会社所有の不動産の評価につき収益価額を基礎として算出するのが相当であるとした昭和58年2月7日大阪高裁決定(判タ502号184頁)関連部分を紹介します。

○遺産分割における株式評価方法は、上場株式は分割時に最も近い時点での取引価格です。取引相場のない非上場株式の場合、実務上は先ず相続税申告書記載評価額を参考にして、①純資産評価方式、②収益還元方式、③配当還元方式、④類似業種比準方式等があります。最終的には専門家による鑑定になり、本件でも専門家の鑑定価格を採用しています。

*********************************************

主   文
一、原審判の第1項の(7)、第2項の(1)、(2)、第3項の(1)を次のとおり変更する。
(一) 第1項の(7)
 原審判添付別紙第1物件目録記載の8の(イ)ないし(ニ)は抗告人の単独取得とする。
(二) 第2項の(1)
 抗告人は、上記分割に伴なう調整金として、相手方Y1に対し金538万4410円、相手方Y2に対し金1970万8245円を各支払え。
(三) 第2項の(2)
 相手方Y3は、上記分割に伴なう調整金として、相手方Y2に対し631万4605円を支払え。
(四) 第3項の(1)
 抗告人及び相手方Y1は、原審判添付別紙第1物件目録記載1(イ)の物件につき相手方Y2、同Y3のため(相手方Y2、同Y3各自につき、抗告人及び相手方各自の共有持分8分の1宛の)、
 相手方Y1、同Y2、同Y3は、同目録8(イ)(ロ)の各物件につき、抗告人のため(各自共有持分4分の1宛の)
 各所有権移転登記手続をせよ。
二、審判費用及び抗告費用はこれを4分し、その1を抗告人、その3を相手方3名の各負担とする。

理   由
一、本件抗告の趣旨は、「原決定を取消しさらに適正なる遺産分割の裁判を求める。」というにあり、その抗告理由は別紙(三)ないし(六)に記載のとおりである。

二、当裁判所の判断
(一) 記録によれば、本件遺産分割審判事件についての手続の経過、相続人及び相続分、本件申立にいたる経過、遺産の状況ならびに遺産の範囲について左記のとおり付加、訂正するほか原審判の理由第1ないし第3、第5に記載のとおり認められるからこれを引用する。

         (中略)



(三) 抗告理由の第二点は、原審判が採用した不動産及び株式の各鑑定結果、就中神明土地株式会社株式2000株の評価額について誤謬が存し、これを分割審判の基礎となしえないというものである。
1. よってまず神明土地株式会社(以下本件会社という)所有の不動産(以下神明土地不動産という)の評価について検討するに、記録によれば、神明土地不動産の家屋19棟のうちの11棟が現に賃貸中のもの、5棟が空家、3棟がそれぞれ空家の部分と貸家部分が併存し、19棟のいずれもが損傷甚だしい現況にあること、19棟のうち1棟を除きいずれも地代家賃統制令の適用を受け家賃は低廉であり、賃貸借中の家屋についても借家人が自ら建物を補強するなどし、これらの借主に対し今後家屋の明渡しを求めることは極めて困難を伴うものとみられること、以上の事実が認められる。

 しかして、神明土地不動産の鑑定評価額を決定するにあたって原審判が採用した新玉正男作成の鑑定評価書(以下新玉鑑定という)によれば、建物すべてが貸家の用に供されている建物とその敷地については収益価額及び積算価額を相互に関連づけて鑑定評価額を決定し、一棟の建物すべてが空家になっているものについては積算価額をもって鑑定評価額とし、一棟の建物に空家の部分と貸家の部分が併存しているものについては前記二者の考え方を適宜折衷して鑑定評価額を導いている。

 しかし本件会社は建物賃貸を目的とする会社であり、神明土地不動産は一体として右会社の営業用の固定資産なのであるから、その不動産の評価にあたっては収益価額を基礎として算出するのが相当というべきである。新玉鑑定が建物が貸家である場合には収益価額に積算価額を関連づけて決定するとし、建物が空家ないし貸家と空家の併存である場合には積算価額により、あるいは二方式の評価方法を折衷して決定するとするが、本件神明土地不動産が前記認定の事実によって明らかなように経済的に最有効利用に供されているものとはとうてい認められないところであり、かかる不動産について積算価額を算出すれば収益価額を大幅に上廻るものとなることが明らかであり、この積算価額を収益価額と関連づけて評価額を算出し、あるいは積算価額により、ないし二方式の折衷により算出するというのは、いたずらに実態を乖離し建物賃貸を目的とする本件会社の資産の適正価額を算出する方法としては相当性を欠くものというべきである。

また新玉鑑定は空家である建物について積算価額すなわち自用地、自用建物として評価するが、空家となっている建物は神明土地不動産のなかに散在するものであることや神明土地不動産が一体として家屋賃貸を目的とする本件会社の資産となっているものであることからすれば、修理を加えたうえ賃貸することを前提として鑑定評価すべきである旨の抗告人の主張は首肯するに足り、新玉鑑定はこの点でも採用できない。

 不動産評価の鑑定評価方式について不動産鑑定評価基準は三方式の併用ないし他の方式を参酌すべきものとする(同基準総論Ⅶ6)が、同基準も当該案件に即して鑑定評価方式を適切に適用すべきものとするのであって、本件神明土地不動産の鑑定評価にあたって収益価額によるべきものとすることはなんら右基準の妥当性を否定することにはならないというべきである。

 以上のとおりであるから、神明土地不動産の評価額について新玉鑑定を採用することは相当でなく、裁判所の鑑定手続きを経たものではないが抗告人が原審において提出した加藤実作成の昭和55年9月22日付不動産鑑定評価書(以下加藤鑑定という)が収益価額により右不動産の評価をなし、その内容においても相当と認められるからこれを採用するのが相当である。右加藤鑑定によれば、神明土地不動産の評価額は相続開始時において金2500万2000円、鑑定時(昭和55年8月28日)において金1億5244万5000円と認めることができる。

2. 次に本件会社の株式2000株の評価について検討するに、原審判が採用した林傅次作成の鑑定書(以下林鑑定という)は、純資産方式を基礎として本件会社の株式の特殊性を斟酌して評価額を算定しているものである。これに対し抗告人は本件会社株式の評価にあたっては、会社の事業継続を前提として経営支配株主にとっての株価を決定すべきであって、会社の解散を前提に価額決定をなすべきではないとし、会社の解散という擬制の上に立つ税務通達の定める原則的評価方式を採用した林鑑定を非難する。

 しかし本件会社の株式はいわゆる取引相場のない株式であるところ、遺産分割審判にあたってかかる株式の評価をなすには会社の資産状態その他いっさいの事情を斟酌して客観的に適正な評価をなせば足り、算定方式についていずれかの一つを採用しなければならないというものではない。しかして林鑑定が採用した評価の算式は、相続、遺贈により取得した財産の評価に適用され、純資産方式の株価評価方法として合理的であると認めることができ、林鑑定が本件会社の資産の評価額について新玉鑑定によっている点はさておき、その算定方式じたいはこれを是認すべきである。

 そこで本件会社の株式の昭和45年11月22日の相続開始時における神明土地不動産の評価額を前記1のとおり金2500万2000円と認められることを前提として林鑑定の採用した算定方式により算出すると、別紙(一)のとおり昭和45年11月22日現在の一株あたりの価額が金5800円、2000株の評価額が金1160万円と算定され、昭和54年3月31日決算日現在の評価額について神明土地不動産の評価額を前記1のとおり昭和55年8月28日現在金1億5244万5000円と認められることを前提として(加藤鑑定は昭和55年8月28日現在の評価額であるが林鑑定の前提とした新玉鑑定の鑑定時期たる昭和54年5月15日現在との時期のずれは無視してよいものと認める)、林鑑定の採用した算定方式により算出すると、別紙(二)のとおり昭和54年3月31日現在の一株あたりの評価額が金3万8000円、2000株の評価額が金7600万円と算定される。

         (中略)


(五) 以上のとおりであるから、抗告人の抗告は一部理由があるから原審判中主文第1項の(1)、(7)、第2項の(1)、(2)、第3項の(1)について変更することとし、審判費用及び抗告費用は主文二のとおり各人に負担させることとして主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 今富滋 裁判官 西池季彦 亀岡幹雄)