小松法律事務所

祖父から父への特別受益について代襲相続人孫の特別受益否定審判例紹介


○祖父から父が特別受益を得ていた場合、父の代襲相続人の孫が祖父の相続人として、父が受けた特別受益の特別受益者として民法第903条1項の持戻し義務があるのですかとの質問を受けました。そこで判例を調べたところ、特別受益を否定した昭和49年5月14日大分家裁審判(家庭裁判月報27巻4号66頁)が見つかりましたので、関連部分を紹介します。

○この判例では、祖父Aが生前長男D・C夫婦のために土地を売却し売却代金をDの生活の資本として贈与していたところ、DがAより先に亡くなった後祖父Aが亡くなり、Dの子Y1,Y2がCの代襲相続人としてAの相続人になった場合、代襲相続人について民法第903条を適用して特別受益分の持戻を行なうのは、当該代襲相続人が代襲により推定相続人となつた後に被相続人から直接特別な利益を得た場合に限ると解すべきとして、Y1,Y2の特別受益を否定しました。

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主   文
 別紙第一物件目録1、13ないし16の各土地は申立人Xの、同目録二ないし四の各土地および同目録一七の建物は相手方Y2の、同目録五ないし七の各土地は相手方Y4の、同目録八ないし一二は相手方Y3の各単独所有とする。
 被相続人加入名簿の電話加入権(32局2514番)は相手方Y1が承継するものとする。
 申立人Xは金82万1778円を、相手方Y2は金257万0830円を、相手方Y3は金48万2899円を相手方Y1は金7万円をそれぞれ相手方Y4に対して支払え。
 鑑定人Bに支給した鑑定料5万6000円は8分し、その各2を申立人X、相手方Y3、同Y4の各負担とし、その各1を相手方Y1、同Y2の各負担とする。

理   由
第一 申立の趣旨ならびに申立人の主張

 申立人は、被相続人Aの遺産について法律上適正な分割を求め、次のとおり主張した。
一 被相続人A(以下「A」という。)は昭和39年2月18日大分市大字〇〇△△番地において死亡し、別紙相続関係図のとおり、申立人X(以下「X」という。)、相手方Y1(以下「Y1」という。)、同Y2(以下「Y2」という。)、同Y3(以下「Y3」という。)、同Y4(以下「Y4」という。)がその遺産を相続した。

二 別紙第一物件目録記載の土地建物および別紙定期預金目録記載の定期預金債権はAの遺産である。
 また、上記土地建物は賃貸しており、その地代家賃は遺産から生じた収益として、遺産分割の際適正に配分すべきである。

三 相手方Y1およびY2の母Cは、昭和36年から同38年の間に被相続人Aが高齢と病弱のため判断力を失なつており、かつ自己がAの実印を自由に使用しうる立場にあつたのを奇貨とし、Aには無断で同人の所有であつた別紙第二物件目録記載の各土地を同目録備考欄記載のように他に売却し、その売却代金を相手方Y1およびY2らの生活費、教育費等に費消した。
 よつて、第二物件目録記載の各土地の価格を相続財産に加算し、その加算額を相手方Y1およびY2らの相続分から控除すべきである。

四 相手方Y1は、被相続人Aから別紙第三物件目録記載の土地建物の生前贈与を受けているから、特別受益者として取扱うべきである。

第二 当裁判所の判断
一 相続開始および相続人

 申立人が提出した関係人の戸籍謄本によれば、被相続人Aは昭和39年2月18日死亡し、別紙相続関係図のように申立人X、相手方Y3、同Y1、同Y2、同Y4がその相続人であり、Y1およびY2の決定相続分は各8分の1、X、Y3、Y4の法定相続分は各4分の1である。
二 遺産
1 別紙第一物件目録一ないし一七の各物件の登記簿謄本によれば、これらの物件がいずれも被相続人Aの遺産であることが明らかであり、鑑定人池田要の鑑定結果および家庭裁判所調査官岩崎正一作成の昭和49年3月18日付調査報告書によれば、上記各物件の相続開始時ならびに現在における価格は別紙遺産評価額表記載のとおりであり、当事者もこの価額に異存がない。

         (中略)

三 特別受益
1 申立人は、第二物件目録記載の各土地はいずれも被相続人Aが高齢と病弱のため判断力を失つているのに乗じ、相手方Y1およびY2の母Cが勝手に売却し、その代金は上記相手方らの生活費に充てられたのでY1およびY2は特別の利益を得ていると主張するので検討するに、家庭裁判所調査官補松木美恵作成の昭和40年7月13日付および同年9月10日付調査報告書によれば、被相続人Aの精神状態は死亡するまで正常であり、同人がその財産を管理していたこと、上記各土地はいずれも被相続人Aの意思に基づいて売却され、その代金は同人の生活費や家屋造作費に費消されたほか、同人と同居して生活していたC、Y1、Y2等の生活費として費消されたことが認められるが、Cは被相続人Aの長男亡Dの妻として老齢のAと同居してその面倒をみるかたわらAの孫にあたるY1、Y2を養育していたものであり、Cが上記代金をY1、Y2の生活費に充てることについてはAもこれを承認していたものと考えられる。

 したがつて、上記売却代金からY1、Y2の生活費に充てられたものは、直系血族間の扶養として支出されたものとみることができこれを特別受益として民法第903条の適用の対象とすることは相当でない。

2 つぎに申立人は、Y1は第三物件目録記載の物件の贈与を受けているので特別受益者であると主張するので検討するに、別紙第三物件目録一ないし五の各物件の登記簿謄本および家庭裁判所調査官補松木美恵作成の昭和40年7月13日付調査報告書(C供述)によれば、同目録一、二の物件は昭和27年12月15日に被相続人からY1に対して同目録三の物件は昭和33年11月10日に被相続人からY1、Y2、亡D、Cらに対して、同目録四の物件は昭和37年7月4日にY1、Y2、Cに対して(持分各3分の1)、同目録五の物件は昭和23年頃被相続人からY1に対してそれぞれ贈与されたことが認められる。

 ところで、Y1、Y2はいずれも被相続人Aの長男亡Dを代襲して被相続人Aの相続人になつたものであるが、このような代襲相続人について民法第903条を適用して特別受益分の持戻を行なうのは、当該代襲相続人が代襲により推定相続人となつた後に被相続人から直接特別な利益を得た場合に限ると解すべきであり、したがつてたとえば当該代襲相続人が推定相続人になる以前に被相続人から贈与を受けた場合、あるいは被相続人から贈与を受けたのは被代襲者であり、代襲相続人は当該被代襲者から当該財産を相続したにすぎない場合などは、当該受益分について民法第903条を適用することはできない。

 したがつてY1、Y2が代襲により推定相続人になつた後にAから直接贈与を受けたのは別紙第三物件目録記載の物件のうち、四の物件のみであり、この物件については民法第903条を適用することができるが、その他の物件については同条を適用することはできない。

3 別紙第一物件目録一八の建物の各登記簿謄本ならびに家庭裁判所調査官F作成の昭和45年4月30日付調査報告書によれば被相続人Aは昭和39年1月9日別紙第一物件目録一八の建物を、同35年11月14日00交通株式会社の株式1500株をいずれも相手方Y1に贈与したことが認められ、これらは、いずれもY1が代襲により推定相続人になつた後に被相続人Aから直接贈与を受けたものであるから持戻の対象とすべきものである。

4 また大分市00町0丁目00番宅地218.18平方メートル(旧00町大字00字00△△番地)の登記簿謄本および旧番地の閉鎖登記簿謄本によれば、上記土地は、被相続人Aが昭和14年3月28日養子の信也に贈与し、その長女である相手方Y4が昭和16年8月14日家督相続によりその所有権を取得したものであることが認められるが、これは相手方Y4が被相続人Aから直接贈与を受けたものでないことが明らかであるから、これについて民法第903条を適用することはできない。

5 以上によれば、Y1は、00交通株式会社の株式1500株、別紙第三物件目録四記載の土地に対する3分の1の共有持分、別紙第一物件目録一八記載の建物を、Y2は、別紙第三物件目録四記載の土地に対する3分の1の共有持分を特別受益として持戻すべきである。
 そして、家庭裁判所調査官E作成の昭和48年6月5日付調査報告書によれば、上記00交通株式会社株式の相続開始時(昭和39年2月18日)における価額は1株80円であつたことが認められ、また鑑定人B作成の鑑定書によれば、別紙第三物件目録四記載の土地(同土地上には別紙第一物件目録一八および同第三物件目録五の建物が存在する。)の相続開始時における価額は371万7780円であること(底地価額)、および別紙第一物件目録一八記載の建物の相続開始時における価額は136万3000円であることが認められる。

 したがつてY1の特別受益額は、136万3000円(第一物件目録18の価額)、123万9260円(第三物件目録四の価額の3分の1)、および12万円(00交通株式会社株式1500株)の合計額である272万2260円であり、Y2の特別受益額は、123万9260円(第三物件目録四の価額の3分の1)である。

四 具体的相続分
 相続開始時における遺産の総評価額1743万9611円に相手方Y1の特別受益額272万2260円および相手方Y2の特別受益額123万9260円を加算すると想定相続財産の価額は2140万1131円となり、これを基にして各相続人の相続分を計算すると一応次のようになる(以下円未満は切捨て)。
Y1の相続分
21,401,131円×(1÷8)-2,722,260円=47,118円

Y2の相続分
21,401,131円×(1÷8)-1,239,260円=1,435,881円

Y3、Y4、Xの各相続分
21,401,131円×(1÷4)=5,350,282円

 上記によればY1の相続分は零であるから、同人を除外し相続開始時における遺産の総評価額1、743万9、611円に相手方Y2の特別受益額123万9、260円のみを加算した1、867万8、871円を想定相続財産の価額として、各相続人の相続分を計算しなおすと次のとおりである。

Y2の相続分
18,678,871円×(1÷7)-1,239,260円=1,429,150円

Y3,Y4、Xの各相続分
18,678,871円×(2÷7)=5,336,820円

 ところで、遺産分割時における遺産の総評価額は別紙遺産評価額表のとおり1億273万2、668円であるから、これを上記各相続分に応じて按分し、各相続人の最終の具体的相続分を計算すると次のとおりである。

Y2の相続分
102,732,668円×(1,429,150÷17,439,610)=8,418,788円

Y3、Y4、Xの各相続分
102,732,668円×(5,336,820÷17,439,610)=31,437,960円

五 分割
 遺産の分割については、遺産の内容、各相続人の希望、事情などを考慮して、別紙第一物件目録一、一三ないし一六の各土地(評価額計3225万9738円、前記具体的相続分より82万1778円超過)は申立人Xの同目録二ないし四の各土地および同目録一七の建物(評価額計1098万9618円、前記具体的相続分より257万0830円超過)は相手方Y2の、同目録五ないし七の各土地(評価額計2749万2453円、前記具体的相続分より394万5507円不足)は相手方Y4の、同目録八ないし一二(評価額計3192万859円、前記相続分より48万2899円超過)は相手方Y3の各単独所有とし、被相続人加入名義の電話加入権(32局2514番、評価額7万円)は相手方Y1が単独承継するものとし(同人の具体的相続分は零であるが、上記電話は同人所有の別紙第一物件目録一八の建物に設置されているので同人に与えることとする。)、上記分割の結果生じる過不足分を清算するため、申立人Xは82万1778円を、相手方Y2は金257万0830円を、相手方Y3は金48万2899円を、相手方Y1は金7万円をそれぞれ相手方Y4に対して支払わせることとし、費用の負担につき、家事審判法第7条、非訟事件手続法第27条、第28条を適用して主文のとおり決定する。(家事審判官 高橋正)

(別紙編略)