小松法律事務所

任意後見法第10条1項に該当しないと判断した高裁決定紹介2


○「任意後見法第10条1項に該当しないと判断した高裁決定紹介」を続けます。
任意後見契約に関する法律に基づく任意後見契約締結を依頼された案件は42年の弁護士生活で1件しかありませんが、この契約に関して裁判になった案件はどのくらいあるか判例データベースで検索してみると10件に満たないものでした。やはり、実務的には余り利用されていないようです。

○検索した裁判例の中で最も古いものが平成12年12月25日札幌高裁判決(家月53巻8号74頁)でしたので紹介します。既に任意後見契約を締結し登記した後にされた補助開始及び代理権の付与の申立てをいずれも却下した審判に対する即時抗告審において、本人の補助開始の審判に関する同意が認められず、任意後見契約に関する法律10条1項にいう「本人の利益のため特に必要があると認める」べき事情を見出しがたいなどとして抗告を棄却したものです。

○本人は、抗告人(原審補助開始申立人)に対し書面で補助開始についての同意を提出していたものが、調査官や家事審判官の面前で、明確にその同意を撤回する意思を表明したものと認めるのが相当とされ、任意後見契約に関する法律10条1項は「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始等の審判等をすることができる。」と定めているところ、本件で特に必要があると認めるべき事情が見出しがたいとされています。

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主    文
本件抗告を棄却する。

理    由
第1 抗告の趣旨及び理由

 別紙即時抗告申立書(写し)記載のとおりである。

第2 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件補助開始申立てを却下すべきものと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原審判理由説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原審判3頁1行目の「同年9月」を「同年8月」に、2行目の「同年11月」を「同年10月」に、それぞれ改める。

(2) 同3頁3行目の次に行を改めて次のとおり加える。
 「本人は、医療法人a会b病院で、脳梗塞後遺症(左不全麻痺)、気管支拡張症、心房細動、老人性痴呆症と診断され、痴呆の初期症状が出現しており、現在同病院に通院している。同病院医師作成の平成12年5月23日付け診断書によると、本人は注意力の低下が目立つことがあり、時々失見当識が出現し、物忘れの症状が少しずつ目立ってきている印象があるとされ、本人の判断能力についての意見としては、「自己の財産を管理・処分するには、援助が必要な場合がある」に該当するものと判定されている。」

(3) 同3頁13行目の次に行を改めて次のとおり加える。
 「その後、原審裁判所に、平成12年5月31日受付で本人作成の補助開始審判についての同意書が提出された。」

(4) 同4頁5行目の「本人は」から6行目の末尾までを「本人は、平成12年7月3日、調査官との面接調査の際に本件申立てに賛成できない旨述べ、同年9月12日に開かれた第1回審問期日においても、家事審判官に対して、由紀の財産管理の在り方に特に不満をもっておらず、また、これ以上兄弟姉妹間の紛争を拡大したくないとの気持ちから、別に貯金管理を手伝う人を選ぶ手続を取る必要はない旨述べた。」に改める。

(5) 同5頁3行目の「また」を「仮に、本人が本件申立てに同意しているとしても」に改める。

2 抗告理由について
(1) 抗告人は、本人の同意書が補助開始についての真意である旨主張するが、前記認定の事実によると、本人は、調査官や家事審判官の面前で、明確にその同意を撤回する意思を表明したものと認めるのが相当である。ちなみに、調査官及び家事審判官の質問に対する受け答え、その他記録に現われた事情を総合すれば、上記面接調査及び第1回審問期日における本人の判断能力は、診断書作成当時以後、特に低下しているとも認められず、前記同意の撤回を本人の真意でないということはできない。

(2) 抗告人は、原審判が任意後見契約の締結を本件申立て却下の理由としているのは不当である旨主張するが、任意後見契約の締結に関する原審判の説示は、仮定的な付言である上に、任意後見契約に関する法律10条1項は「任意後見契約が登記されている場合には、家庭裁判所は、本人の利益のため特に必要があると認めるときに限り、後見開始等の審判等をすることができる。」と定めているところ、本件で特に必要があると認めるべき事情が見出しがたいことは原審説示のとおりであるから(記録によれば、本人の財産については、既に財産目録が作成されており、今後の大きな支出については、Bに管理が委ねられる手筈が整えられていることが認められる。)、抗告人の主張は理由がない。

(3) さらに、抗告人は、原審判は本人の利益の保護をまったく考慮していないと非難する。しかしながら、補助の制度は、あくまでも本人に一定程度の判断能力があることを前提として、この制度を利用するか否かにつき、本人の同意権を優先させているのであり、仮にその判断能力さえも有しないというような場合には、もはや、補助の制度を利用させる余地もないことになる筋合いである。したがって、抗告人の上記批判は当たらないというべきである。

3 よって、原審判は相当であり、本件抗告は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。
 (裁判長裁判官 前島勝三 裁判官 竹内純一 石井浩)



 (別紙) 即時抗告申立書

抗告の趣旨
 札幌家庭裁判所平成12年(家)第20034号補助開始申立事件、並びに平成12年(家)第20035号代理権の付与申立事件の平成12年10月4日付け「本件申立てをいずれも却下する」との審判は、これを取り消し、本件を札幌家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めます。

抗告理由
1.この抗告の理由では特にことわりのないかぎり本件の申立と原審判で使用された名詞と用語を使用する。すなわち申立人は抗告人と同一であり、本人とはAである。

2.補助開始審判の第一要件は本人の事理の弁識能力の判定であり、原審判でも認められているように本人の弁識能力が不十分であることは明白な事実である。この第一要件が認められていることを前提に以下に抗告の理由を述べる。

3.原審判は審判の申立手続の一つとして本人の同意を要件と指摘し、Cに同伴された本人が調査官等に「申立に不同意」の旨を口述したことをもって、本人が署名押印した同意書を無効扱いとしている。この点については、成年後見制度改正の理念では第一要件が満たされているとき、本人の同意、すなわち本人の自律意思の尊重は、本人の利益の保護との調和に於いて審判されるのが旨とされている。

原審判ではこの本人の利益保護との調和が充分計られていない、がそれは後述することとして、本人の申立不同意が、事情聴取の際の本人の言動と態度が調査官等へ与えた印象に基づき、それを本人の真意としているのは誤認といわざるをえない。そもそも現社会において署名・捺印行為により同意した事項は遵守されるのが当然であり、破棄・解約等をする場合にもそれなりの法律的行為が要求される。

しかるに申立に至る数ヵ月にわたって申立人等に対して本人が涙ながらに訴えた実情に基づく申立の趣旨と同意書が本人の真意でないとするなら、原審判ではそれについて充分な説明されるはずべきのところである。しかしながら本人のコロコロと変心する小児的意思表明と見境いのない署名・捺印行為からは本人の真意を見極めるのは極めて難しいのも事実である。

さらに申立人自身も経験するところであるがCによる「そんなこと言ったら後でただでおかないから!」の怒声が耳元にこびりつくような状況で真意を述べるのは不可能である。わずかな時間の審問調査において精神的障害を持ち妄想で脅える本人の言動態度からの印象だけをもとに本人の真意としているのは明らかに誤りといわざるをえない。

本人の真意は厳密な精神鑑定の専門的管理の下で確認されるべきものであり、そのような確認がないかぎり、本人が署名捺印した同意書をもって本人の真意とするのが現社会の常識である。数十年に及び母娘の信頼関係において本人と申立人の間で契約された同意書は有効である。本人は申立に同意していないという原審判の理由は誤認に基づくものであり成立しない。

4.成年後見制度における任意後見契約について申立人はよく理解するものではない。しかし本件の申立の約2ヵ月後に本人がBと契約したことをその公正証書の写しをBから入手して知ることとなった。任意後見契約は家庭裁判所の行う補助開始審判とは独立なものであり、それらが相互に関わり合うのは任意後見人監督人の選任時であると認識される。

現在この抗告時点でも任意後見人監督人の選任の申立はされていない。また登記されたBは任意後見人受任者であり、代理権をもつ任意後見人ではない。原審判は裁判所の判断1(7)においてBに7月31日に代理権があたかもあたえられたかのような表現をしつつ、「すでに任意後見契約・・・登記されている場合、補助開始の・・・事情は認められない」としている。これは家庭裁判所が行う審判の権威と独立性をみずから毀損しかねない審判理由であるので到底容認できない。さらにもし仮に任意後見契約締結を審判理由として挙げるなら任意後見人受任者への調査が行われるべきであるがそれが行われていない。ゆえにこの任意後見契約締結を理由とする原審判は不当である。

5.原審判を申立人が不服とする更なる理由は、任意後見契約の締結を理由に本人の利益の保護の観点に基づく申立事情について原審判が無視している点である。補助開始審判申立の第一要件が認められたとき、成年後見制度では任意後見契約の有無にかかわらず審判は独立してなされるとある。そこでは本人の利益の保護にも配慮した審判がなされるべきである。

原審判は本人の利益と財産の保護についてはふれていない。申立人は別件調停事件の申立及び本件の申立において本人の利益の保護のための実情を切々と申し述べたが、ここでその要約と補足をする。裁判所の判断1(4)のC夫婦の後見人のような行為は、そもそも家族の承認を得たものでなく、補助人等を法的に定める成年後見制度においてはあきらかに不法行為である。

C夫婦のこの後見人様の不法行為は本人が脳梗塞で倒れて以降、「本人の土地を抵当として借金する」「C夫婦息子へ多額の学資贈与する」など不正な行為に発展した故に、もはや申立人等の黙認するところでなく別件調停事件と本件の申立となった。本件申立以降、Cには本人に接する態度にやや改善は見られるものの、不法不正行為であることを認識せず、さらに本人に対して脅しすかしなどの不正な手段を用いて「改印」「遺言書の作成」「任意後見契約」等の行為を強制してきたのは事実である。これらの行為が本人の自律意思に基づいたものかどうかを見極めるのはやはり極めて難しい。

しかし、平成12年7月11日にDが別件調停事件とこれらの行為の真偽確認のため本人を自宅に訪問した際に、Cは「警察を呼ぶわよ!」等と言いつつその面談を妨害した事実がある。これは面談によって不正な意図が明らかになることを妨害しようとする事を示唆する。本人が介護と法に基づく補助による本人の財産の保護を真に必要としている事実は変わらない。本件は単に家族間の金銭紛争の仲裁のような性格ではなく、本人の財産の保護を目的とする正当な申立である。原審判は本人の利益の保護を考慮せず、またCの行っている不法・不正行為を結果として容認することとなる不当なものである。