後見人の被後見人財産取得は厳しく制限すべき-民法第866・966紹介
○平成25年の前記記事によると成年後見制度を悪用しての預り金着服が全国で相次ぎ、最高裁によると判明した被害額は「少なくとも5億円近く」ということですとされています。これは判明したものだけで、氷山の一角と思われます。判断能力の衰えた資産家の老人の成年後見人或いは保佐人等に就任して、その老人の資産を自らのものにする手段としては、先ず被後見人から後見人への贈与があります。これについては、民法第866条の制限があります。
第866条(被後見人の財産等の譲受けの取消し)
後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人は、これを取り消すことができる。この場合においては、第20条の規定を準用する。
2 前項の規定は、第121条から第126条までの規定の適用を妨げない。
○この民法第866条については、昭和38年10月10日最高裁判決(判タ164号197頁)で、「民法866条(旧法930条)の解釈として、後見監督人が被後見人を代理して当該行為を成立させた場合でも、またその行為について親族会の同意があつた場合でも、被後見人は同条によつて取消権を有する」と判示しています。被後見人の保護をより厚く解釈しています。
○判断能力の衰えた老人の被後見者財産を後見人自らの財産とする手段としては、被後見人に財産の多くを後見人に遺贈するとの遺言書を作成させることがあります。しかしこれについては民法第966条で規制されています。
第966条(被後見人の遺言の制限)
被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。
2 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
○ここでの後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となる遺言とは、被後見人の財産の全部または一部を後見人に遺贈するとの内容が典型です。実際このような自筆証書遺言を被後見人に書かせる例は多いと思われますが、発覚したら民法第966条を適用して無効とすることができます。後見人ではありませんが、弁護士が自分の依頼者に、3億円以上になる依頼者の財産全部をその弁護士に遺贈するとの遺言書を作成させて、遺族から遺言無効訴訟を提起され、遺言無効とされた例があります。弁護士としては極めて恥ずかしい事案です。