小松法律事務所

「かかりつけ弁護士」頼って-任意後見制度の普及を目指して


○任意後見制度を創設した任意後見契約に関する法律(略称「任意後見契約法」)は平成11年12月に制定され、同12年4月から施行されています。任意後見制度は、新しい成年後見制度の理念のひとつである自己決定権の尊重に最も適った制度であり、超高齢社会を目前として、その活用が期待されていましたが、その利用は非常に少ないと言われています。

○日本評論社平成27年発行基本法コンメンタール親族法の任意後見契約法の解説によれば、平成26年の家裁への法定後見開始審判申立件数は2万7515件のところ、任意後見契約登記件数は9791件、任意後見監督人選任審判申立件数は738件に過ぎません。法定後見申立件数に比較し、任意後見契約は3分の1で、後見契約の効力発生要件である任意後見監督人選任審判審判申立件数は、契約件数の1割にも達せず、法定後見申立件数の3%にもなりません。

○「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)による速報値による認知症高齢者数は、平成24年432万人、平成27年517万人、令和2年602万人と推計されています。平成26年時点での認知症高齢者数は500万人前後居ると推定されるところ、任意後見契約数は979件は余りにも少なすぎます。

○そこで任意後見契約の普及を図ろうと兵庫県弁護士会で「かかりつけ弁護士」としての利用を呼び掛けているとのことです。問題は、弁護士に限りませんが、弁護士等専門家を利用した場合の報酬です。専門家法定後見人による被後見人財産横領事件は後を絶たず、日弁連や日司連では、後見人横領事件の被害弁償制度も発足させています。

○任意後見制度が利用されないことについて、日本成年後見法学会制度改正研究委員会が平成24年7月に「任意後見制度の改善・改正の提言」をまとめていますが、その中で「6 不当に高額な報酬の是正手続の創設」を紹介します。

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「かかりつけ弁護士」頼って 単身高齢者の財産や遺産管理 兵庫県弁護士会、紹介業務を制度化
神戸新聞8/24(火) 9:46配信


単身で暮らす高齢の人たちが判断能力が衰える前に弁護士と契約を結び、もしもの時の財産管理に備える「ホームロイヤー」の活用を、各地の弁護士会が促している。兵庫県弁護士会は今年4月、登録弁護士の紹介や監督を制度化。普段から気軽に相談できる“かかりつけ弁護士”として利用を呼び掛けている。(那谷享平)

2015年の国勢調査によると、65歳以上の単身で暮らす高齢者は全国で約592万世帯。人数、割合ともに増加が続く。身寄りがないことで財産トラブルや犯罪の被害が懸念される。神戸市では13~14年、認知症の単身高齢者が1億円をだまし取られる事件が起きた。

弁護士会が備えとして提唱するのが、ホームロイヤーだ。契約を結んだ弁護士が一般的な法律相談のほか、財産管理や遺言状の作成、死後の事務処理などを担う。定期的な見守り訪問なども行うという。

県弁護士会の制度では、同会が窓口となり、研修を修了した弁護士を依頼者に紹介する。依頼主の判断力の低下に乗じた横領などを防ぐため、弁護士には、財産の管理記録や弁護士料などについて同会への報告を義務づける。

神戸市の種谷有希子弁護士は、過去に末期がんの女性のホームロイヤーを担当した。裁判所ではなく女性本人が選ぶ「任意後見人」となり、女性と財産処分の意向を確認。女性が亡くなった後、飼っていたペットの引き取り先を選んだ上で、現金化した財産を引き取り先に贈与したという。

県弁護士会は9月11日午後1時から神戸市中央区の県弁護士会館で、ホームロイヤーに関する講演会を開く。社会学者の上野千鶴子さんによるオンライン講演のほか、利用者や弁護士らの経験談を紹介する。無料。会場は先着50人、オンライン参加は先着千人を受け付ける。兵庫県弁護士会のホームページから事前に申し込む。同会TEL078・341・8227(平日のみ)


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任意後見制度の改善・改正の提言
平成24年7月 日本成年後見法学会制度改正研究委員会


はじめに

(中略)

6 不当に高額な報酬の是正手続の創設
任意後見監督人に任意後見人報酬の減額請求権を認めることを任意後見契約法に定めるべきである。契約後の状況の変動により、任意後見人の報酬額が不適当となった場合には、これを是正させることが必要となる。在宅で生活している本人に対する支援を前提として報酬額を定めたが、施設に入居したというような場合には、支援の内容は大きく変わることになる。また、複数の不動産の管理を行うこととなっていたが、不動産を売却したというような場合も、その事務内容は大きく変わる。

任意後見契約締結時であるならば、不当に高額な報酬は、公証人の公正証書作成拒絶の問題であり、上記提言2の中で是正させることが可能である。これに対し、任意後見契約締結後は、契約変更の問題となり、本人と受任者ないし任意後見監督人(利益相反行為として任意後見監督人が代理権を有する)との合意ができれば変更は可能である。

しかし、任意後見人が反対すれば変更はできない。また、本人の判断能力が減退した後に、本人が任意後見人に対し報酬減額を請求することも現実的に困難である。そこで、任意後見監督人に減額請求権を認めることが必要となる。借地借家法における賃料増減額請求(借地借家法11条・32条)と同趣旨の制度を設けるのである。

このような制度であれば、逆に報酬の定めが低廉すぎて不相当になったときには、任意後見人に増額請求を認めることもあり得ることになる。任意後見契約発効後の報酬額変更については、通常は、任意後見人は任意後見監督人と協議することになるが、合意に至らない場合もあり得る。そのような場合には、裁判所が相当な金額を決定するということも考えられる。任意後見契約は契約期間が長期にわたることが予想される。

そうであるならば、事情変更の原則の適用として減額請求の制度を設け、任意後見監督人が減額請求をすることができるものとすべきである。なお、任意後見報酬については、一定の基準が存在するわけではないが、法定後見人等の報酬などを参考に一定の基準を見出すことは可能であり、最終的には裁判所の審判により適切な報酬額を定めることは可能である。