小松法律事務所

遺産共有も共有で民法第258条が適用されるとした高裁判決判決紹介


○「遺産共有も共有で分割は現物分割を原則とした最高裁判決紹介」の続きで、その原審である昭和27年12月4日東京高裁(最高裁判所民事判例集9巻6号804頁)を紹介します。「遺産共有も共有で民法第258条が適用されるとした地裁判決判決紹介」の控訴審です。

○一審判決は、本件不動産の共有者として持分2分の1を有する被控訴人が、同じく持分2分の1を有する控訴人に対して、本件不動産につき2分の1の持分による現物分割、もしくはその競売による分割を命じ、これを不服として控訴人が控訴していました。

○控訴審判決も、共同相続財産もまた共有財産にほかならないため、本件の場合においても一般共有財産の分割に関する民法258条2項の規定が適用されるべきであるとし、本件不動産を現物を以て分割しようとすれば、本件不動産の種類、性質、位置、利用方法ならびに当事者双方の諸事情等に照らして、はなはだ不合理な結果を生し、且つ、分割によって著しくその価格を損するおそれがあるから、現物分割に代わる方法として本件不動産の一括競売を命じ、その売得金を控訴人及び被控訴人で分割取得させるのが相当である等として控訴を棄却しました。

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主   文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。

事   実
控訴代理人は「原判決中控訴人勝訴の部分を除きその余を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、もし別紙目録記載の不動産が控訴人と被控訴人との間の共有であると認定せられる場合には、「原判決を次のとおり変更する。右不動産を控訴人の単独所有とすること。控訴人は被控訴人に対し適当な金員を支払うこと。訴訟費用は第1、2審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、被控訴代理人において、被控訴人は昭和19年中東京都より群馬県利根郡沼田町に疎開し、現在肩書地のささやかな借家に当20才及び23才の娘二人と居住する無職、無資産の当54才の未亡人であつて、わずかに娘等のミシン裁縫の内職等によつて生計を立てている貧困者であるが、本件不動産の共有持分はその生計の一助として亡夫Dの長兄訴外角田Bから譲受けたものである。控訴人は農業を営み、もともと控訴人及びその妻名義の土地を所有していたが、さらに今次の農地解放によつて相当反別の耕地を加え、人手も多く、盛んに農耕をなし、その肩書居住地方において中流以上の裕福な生計を営んでいるものであり、しかも、本件不動産を長年にわたり悪意をもつて不法に占有しているものである。右訴外Bと被控訴人との間の右不動産の共有持分の譲渡契約が仮装行為であるとの控訴人の抗弁は時機に後れて提出せられた防禦方法であつて、これがため訴訟の完結を遅延せしめるものであるから却下せらるべきである。なお右抗弁事実を否認する、と述べ、控訴代理人において、被控訴人は訴外角田Bから本件不動産の2分の1の共有持分の譲渡を受けた旨主張するけれども、右は当事者相通じてなした仮装行為であるから無効である。

したがつて被控訴人は右不動産の共有権者ではない。被控訴人は右抗弁は時機に後れて提出せられた防禦方法である旨主張するけれども、控訴人は、右譲渡行為の仮装であることは、昭和26年2月4日附角田BからEに宛てた葉書(乙第一号証)の文言によつて、その頃はじめて覚知したものであるから、時機に後れた防禦方法ということはできない。控訴人の従来の主張は、被控訴人が本件不動産の共有権者と仮定しての主張である。本件共有物分割の方法として、民法第258条第二項により競売を命ぜられるとしても、控訴人が原審において主張したところの本件居宅建物のために支出した必要費の額はその支出後の急激な物価の変動に伴い貨幣価値が著しく下落しているから、その支出当時の金額によらず、右金額を物価の変動に応じて換算した金額をもつて共有に関する債権となすべきである。少くとも右居宅建物の板屋根を万年瓦に葺替えた費用金1050円、その庇屋根替の費用金450円については、右万年瓦等は消耗品と異なり現に残存して右建物を組成しており、しかも該万年瓦等の価格が物価の昂騰に伴い値上りし、他の建物組成部分の価格と合して右建物全部の価格をなしている以上、当時の支出金額を標準とせず、右建物の当時の価格と現在の価格とを対比し、その比率にしたがつて右万年瓦等の現在の価格を算出し、これをもつて共有に関する債権となすべきである。と述べた外、いずれも原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。(立証省略)

理   由
別紙目録記載の本件不動産がもと訴外角田Aの所有であつたところ、昭和12年8月13日同訴外人の死亡によつて、訴外角田Bと控訴人の先代養母角田Cとが各2分の1の共有持分による遺産相続をしたこと、その後昭和18年3月10日、右Cの死亡によつて控訴人が家督相続をして、その共有持分を承継したこと、右訴外Bの弟Dの妻であつた被控訴人が同年9月11日Bからその共有持分の贈与を受けたとして、その旨の登記をなし、現に本件不動産が控訴人及び被控訴人の各2分の1の持分による共有の形となつていることは、いずれも当事者間に争がない。

控訴人は訴外Bと被控訴人との間の右共有持分の譲渡契約は当事者相通じてなした仮装行為であるから、無効である旨抗弁し、被控訴人は右抗弁は時機に後れて提出せられた防禦方法であつて、これがために訴訟の完結を遅延せしめるものであるから却下せられたい旨申立てるから、まず被控訴人の右申立の当否について考えるに、控訴人の右抗弁は昭和26年6月25日の当審の最初の口頭弁論期日において提出せられたものであることは本件記録上明らかであつて、しかも控訴人が右譲渡契約が仮装行為であることは成立に争のない乙第一号証(2月4日附角田BからEに宛てた昭和26年2月5日附郵便局の消印ある葉書)によつて、その頃はじめてこれを覚知した旨主張するものであり、かたがた当審における訴訟の経過に徴して、右抗弁はいまだ時機に後れて提出せられ、これによつて訴訟の完結を遅延せしめるものとは断じえないから、被控訴人の右申立は理由がないものというべきである。

よつて進んで控訴人の前記抗弁について按ずるに、前掲乙第一号証、成立に争のない同第四号証の一ないし五、第五号証の一ないし六(角田BからE、もしくはFに宛てた葉書)、当審証人Fの証言によれば、本件不動産の共有持分権は依然として訴外Bの手中にあつて、前記譲渡契約は当事者相通じてなした仮装行為であるかのような観がないでもないが、原審及び当審証人G、当審証人角田Bの各証言、登記所の印の成立について当事者間に争なく、その他の部分について当審証人Gの証言によつてその成立の認められる甲第三号証の一(土地建物共有持分贈与証書)、当審における被控訴人角田ゆみ本人の供述を総合すれば、訴外Bは亡弟Dの生前からD家のため種々面倒を見ていたが、同人が昭和18年8月13日死亡し、その長男長女等が相次いで死亡し,その遺族が資産もなく不幸な境遇にあるのを憂い、同年9月11日近親援助の意味をもつて本件不動産の共有持分を被控訴人に贈与したこと、その共有持分については、以前から控訴人との間にその分割等の問題をめぐつて紛争があつたので、その紛争の解決を待つてこれを贈与する考えであつたが、Bは老来ますます耳が遠くなり、身の進退も不自由がちとなつたので、紛争未解決のままこれを贈与するに至つたこと、かような従来の関係もあり、また被控訴人からの依頼もあつて本件訴訟についても同人を援助し、和解や調停の際にも同人の代理人として、また利害関係人として、裁判所に出頭し、同人のために親身となつて有利な結果をうるため尽力しているものであること、前掲乙号にあたかも本件共有持分がBの権利に属するものであるかのような表現のあるのも前述の事情によるものに外ならず、右共有持分は真実Bから被控訴人に贈与せられたものであつて右贈与行為が虚偽仮装のものでないことが認められる。

したがつて前掲乙号各証、同証人Fの証言によつては右認定を左右するに由なく、当審における控訴人角田浩三郎本人の供述中該認定に牴触する部分は措信しがたく、他にこれを覆すに足りる証拠がないから、控訴人の前記抗弁は採用の限りでない。そして本件共有物の分割について、控訴人と被控訴人との間にしばしば折衝があつたにもかかわらず協議が調わなかつたことは当事者間に争のないところであるから、被控訴人は控訴人に対し本件不動産の共有持分の分割を裁判所に請求し得るものといわなければならない。

よつて右共有物の分割方法について考えるに、控訴人方が従来本件不動産を利用し農業を家業として来たもので、控訴人は現在妻と12人の子供と長男の婦との14人の家族を擁し、農業に従事していること、被控訴人は従来東京都に居住していてほとんど農業に従事したことのないことは、いずれも当事者間に争がなく、原審証人Gの証言及び前掲被控訴人本人の供述によれば被控訴人は昭和19年中東京都より群馬県利根郡沼田町に疎開し、現在同町大字沼田九番地所在のささやかな借家に23才と20才の娘二人とともに居住する54才の未亡人であり、無職無資産でわずかにミシン裁縫の内職等によつて生活している者であることが認められる。

また当審における検証の結果によれば、別紙目録記載の不動産の内737番の甲宅地201坪((一)の土地)は、その北東側は沼田町より片品川に至る道路(表道路と略称する)に面し北西側は737番乙宅地七坪((二)の土地)に接し、南西側は係争外の他人の土地に接し、南東側は通路を挟んで730★番宅地280坪((三)の土地)に対しており、右(三)の土地は、その北東側は前記表道路に面し、南東側は通路を距てて係争外の他人の土地に対し、南西側は係争外の他人の土地甲739番の二を距てて甲739番の一宅地89坪((四)の土地)に対しており、本件四棟の建物(六)(七)、(八)の建物は(五)の建物の附属建物であることは当事者間に争がない)の内登記簿上(一)の土地の上に在るべき居宅((五)の建物)及び物置((七)の建物)の二棟は実際は(三)の土地の上に存し、したがつて、(一)の土地の上に現存するものは倉庫((六)の建物)及び便所((八)の建物)の二棟のみであつて、倉庫は(一)の土地の南部に便所は右土地の東部隅、表道路に近い所に存し、(一)の土地のその余の部分はおおむね唐黍の栽培その他、野菜畑として利用せられ、右土地の北西に接続する(二)の土地は(一)の土地より約10尺も高く、雑草の繁茂せる傾斜地であり、(三)の土地の上に存在する居宅は(一)の土地との間の通路に沿つて右土地の北東寄りの部分に南東に面して建てられた間口12間、奥行五間の二階建の建物で、階下は向つて右端に牛小屋その後方に風呂場、その左右に土間、板の間と続き、その左前に17畳半の養蚕室、その後方に桑置場、左端は前後に各十畳の座敷二間あり、階上は蚕室向きの板敷であり、同土地上に存する物置は、右居宅の西部の隅に南東に面して建てられてあり、なお右物置の南東部に豚舎一棟(係争外の建物)があり、(三)の土地中右三棟の建物が現存する以外の部分は一部庭園、一部野菜畑として利用せられ、その間は若干の庭樹及び桑樹が植栽され、その四囲は北西部分の通路を距てて(一)の土地に自由に出入しうる外は、生垣または桑樹をもつて表道路及び隣地との境をかぎり、また(三)の土地と一筆の土地を距ててその南西方に位する(四)の土地はごぼう、にんじん等の野菜畑となつていることが認められる。

そして、本件は民法応急措置法(昭和22年法律第74号)施行前に開始した相続財産の分割に関するものであるから民法附則第25条によつて旧民法を適用すべき場合であるが、同附則第32条によつて民法第906条が準用せられるから、同条の趣旨に則つて分割すべきものであることは勿論である。しかし同附則第32条によつて準用せられる民法の各条及び旧民法相続編には遺産分割の方法について何等規定するところがないから、共同相続財産もまた共有財産に外ならないゆえ、本件の場合においても一般共有財産の分割に関する民法第258条第2項の規定の適用のあることは疑いない。

しかも原審における鑑定人H、同I、同Jの各鑑定の結果によれば、本件不動産中(五)の居宅建物の価格とその他の宅地建物全部の価格の比は前者の方がはるかに大であることが認められるから、本件不動産を現物をもつて分割しようとすれば、いきおい(五)の建物を分割しなければならないこととなり著しくその価格を損する結果を来たし、また成立に争のない乙第六号証(利南村長の証明書)記載の評価格によるとしても、(五)の建物の価格とその他の宅地建物全部の価格の比は相匹敵することとなり、一方に(五)の建物を付与すれば、他方にはその建物敷地を含む全宅地と(五)の建物の附属建物全部を付与しなければならないこととなり、前記認定の本件不動産の種類、性質、位置、利用方法並びに当事者双方の諸事情等に照して、はなはだ不合理の結果を生ずるのみならず、分割によつて著しくその価格を損する虞あるものというべきであるから、現物分割に代る方法として本件不動産の一括競売を命じ、その売得金を控訴人及び被控訴人に平分取得せしめるのが相当であると解する。

控訴人は本件不動産を控訴人に付与し、その鑑定価格の半額を被控訴人に提供する分割方法によるべきであつて、民法第258条第2項の競売による分割をなすべきではない旨主張するけれども本件の遺産分割についても、民法附則第32条によつて民法第907条の規定が準用せられるから新民法施行後においては遺産の分割は家庭裁判所にその請求をすることを要し、家庭裁判所は家事審判法第9条第1項乙類第十号、家事審判規則第109条等の規定によつて控訴人の主張するように共同相続人の一人に遺産を付与するとともに同人をして他の共同相続人に対し債務を負担させ、現物をもつてする分割に代える旨の審判をすることも可能であるけれども、本件のように新民法施行前にすでに遺産分割請求の訴訟が裁判所に係属した事件については、家事審判法家事審判規則等の適用のないことは勿論であるから、結局前述のように民法第258条第2項の規定による外ないものというべきであつて、右と異なつた見解に立つ控訴人の主張はこれを採用することができない。

次に控訴人の被控訴人に対する本件不動産の必要費の償還請求について按ずるに

         (中略)

しかも控訴人はその主張の算定方法によつて共有に関する債権となるべき金額を具体的に主張していないのであるから、控訴人の右主張はいずれにしても理由がないものといわなければならない。

以上の理由によつて本件不動産につき一括競売を命じ、その売得金より競売費用を控除した残額を2分して控訴人と被控訴人に各その1を分配し、且つ被控訴人をして控訴人に対し自己に帰すべき金額中より金1200円を支払わしめるのを適当と考える。したがつて原判決は右と同趣旨で相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第384条第1項、第95条、第89条を適用して主文のとおり判決する。(昭和27年12月4日東京高等裁判所第五民事部)
(別紙目録は省略する。)