小松法律事務所

生命保険金の全保険料中払保険料割合分を特別受益とした家裁審判紹介


○「生命保険金持ち戻しは一律否認せずケースバイケースで柔軟に考えるべき」で、「生命保険金は遺産ではないので一切特別受益の対象にならないと杓子定規に考えるのではなく、ケースバイケースで柔軟に考えるべきでしょう。」と記載していましたが、被相続人が支払った保険料について特別受益に当たるとする判例を探しています。

○生命保険金請求権は、保険金の受取人と指定された相続人の一人の固有財産に属するものと考えられるが、相続人間の公平という見地から被相続人がその死亡時までに払い込んだ保険料の保険料全額に対する割合を保険金に乗じて得た金額をもつて特別受益とすべきとした昭和51年11月25日大阪家裁審判(家庭裁判月報29巻6号27頁)関連部分を紹介します。

○生命保険金は1000万円ですが、被相続人の生命保険契約では、契約日昭和48年1月1日、当時の被相続人の年齢は40歳8ヵ月で保険料年額8万3040円(月額6920円)を満60歳に達するまでの20年間支払うこととなつており、支払うべき保険料総額は、8万3040円×20=166万0800円のところ、被相続人が死亡時までに支払つた保険料は昭和48年1月から8月分まで6920円×8=5万5360円でした。

○そこで審判は、支給保険金997万2320円について、997万2320×(5万5360÷166万0800)=33万2410円を特別受益分として持戻されるべき金額としました。この考え方によると支払った保険金額5万5360円を超える33万2410円が特別受益と認めており、支払保険金額全部が特別受益になるとも考えられます。

**************************************

主  文
申立人は金295万4385円を取得する。
相手方は金404万5615円を取得する。

理  由
第一 当事者双方の主張
一 申立の実情

1 被相続人Aは昭和48年8月28日××市○○区で死亡して相続が開始し、被相続人の母である申立人および妻である相手方がそれぞれ各2分の1の法定相続分をもつて、被相続人の遺産を相続した。

2 被相続人の生前、被相続人は申立人および相手方の3人で生活し、申立人は被相続人の扶養を受けていたものであるところ、昭和49年2月24日、申立人と相手方との間で下記の契約が成立した。
(1) 相手方は申立人に昭和49年2月24日金400万円を贈与する。
(2) 申立人は、同人の二男Xの扶養を受け、相手方は申立人に対して扶養の義務を負うことなく、かつ申立人の扶養者の扶養については一切関与せず、申立人もまた相手方に対して一切関与しない。

3 ところで、被相続人には相続開始時下記の遺産が存した。
(1) 生命保険金 金1000万円
 上記生命保険は、被相続人自身を被保険者、相手方を保険金受取人とするものであるが、生命保険金請求権は保険契約の効力により受取人に原始的に帰属し、相続財産を構成しない、とする考え方は共同相続人間の公平の観点からして不合理である。生命保険金を相続財産には含まし得ないとしても、相続人間の公平の観点から遺贈と同視すべき財産の無償処分であり、民法903条の特別受益と解すべきである。従つて、上記生命保険金を本件遺産分割の対象となる相続財産に加算すべきである。

         (中略)

二 相手方の主張
1 申立人主張の被相続人の遺産のうち、(3)ないし(7)が遺産に属することは認めるが、(1)生命保険金および(2)退職金が、遺産に属することは否認する。

 生命保険金は相手方が保険金受取人と指定され○○生命保険相互会社から受領したもので、保険契約の効力発生と同時に相手方の固有財産となつたものであつて、被相続人の遺産から離脱したというべきであり、また退職金は被相続人死亡により国家公務員退職手当法2条、11条に基づき、相手方が受領権者として固有の権利として△△大学から受領したものであつて、相手方の固有財産であるから、いずれも被相続人の相続財産を構成するものではない。

         (中略)


第二 当裁判所の判断
一 相続人および法定相続分

 本件記録中の戸籍謄本によると、被相続人Aが昭和48年8月28日死亡して、その相続が開始し、被相続人の妻である相手方および母である申立人が被相続人の遺産を相続した(但し、申立人は本件の調停進行中である昭和50年1月20日死亡し、被相続人のただ1人の弟であり、申立人の二男であるXが、本件手続を承継した)ことが認められ、従つて、申立人および相手方の法定相続分は各2分の1であることが認められる。

二 遺産の範囲および価額
1 本件記録中の登記簿謄本3通、「お支払明細書」と題する書面(○○生命保険相互会社保険金課作成)、△△大学退職手当決定通知書二通、家庭裁判所調査官B作成の調査報告書、不動産売買契約証書、公団公社分譲住宅速報に、当事者間に争いのない事実を総合すると、被相続人の遺産およびその価額は次のとおりであることが認められる。
(1) 交通災害保険金(×××市の交通災害保険に基づくもの) 金50万円
(2) 預金 金155万円
(3) 社債 金80万円

(4) 別紙目録記載の土地、建物 価額金600万円
 同建物については昭和48年11月19日付で、相続を原因として被相続人から相手方に所有権移転登記がなされているが、後記の遺産分割協議がなされた時点での価額は金800万円程度であると考えるのが相当であるところ、同価額のうち、相手方が相続開始時以降支払うべきローン残高200万円を控除して、遺産分割の対象としての価額は金600万円をもつて相当とする。

(5) 自動車損害賠償責任保険金(以下自賠責保険金と称する)金700万円

2 上記認定の遺産の外に、申立人は被相続人が○○生命保険相互会社との間で締結した、相手方を受取人とする生命保険金1000万円についても、被相続人の遺産に含まれる旨主張するが、上記資料の外、相手方代理人作成の保険内容に関する書面によれば本件のように被相続人自身が契約し、相続人のうちの1人である相手方のみを受取人と指定している場合は、保険契約の効力として、支給された保険金は相手方の固有財産に属するものと考える。

しかしながら、保険金請求権についても、相続人間の公平という見地から特別受益とみなして分割の際に考慮すべきである。但し、特別受益分として持戻すべき額は、保険契約者であり保険料負担者である被相続人において、その死亡時までに払い込んだ保険料の、保険料全額に対する割合を保険金に乗じて得た金額とすべきものと考える。
しかして、本件保険契約の内容は、契約日は昭和48年1月1日、当時の被相続人の年齢は40歳8ヵ月で保険料年額8万3040円(月額6920円)を満60歳に達するまでの20年間支払うこととなつている。

 そうすると、支払うべき保険料の総額は
 8万3040円×20=166万0800円
であり、被相続人が死亡時までに支払つた保険料は昭和48年1月から8月分までであるので、
 6920円×8=5万5360円
 となる。

これに対して支給された保険金は997万2320円であつた(上記保険料年額の不足分9月から12月までの4ヵ月分2万7680円が差引かれたので、上記の額となつた。)。従つて、特別受益分として持戻されるべき金額は、
 997万2320×(5万5360÷166万0800)=33万2410
 33万2410円(小数点以下切捨て)ということになる。