小松法律事務所

祖父から父への特別受益について代襲相続人孫の特別受益否定審判例紹介2


○「祖父から父への特別受益について代襲相続人孫の特別受益否定審判例紹介」の続きで、被相続人から被代襲者が受けた生前贈与は、代襲者が被代襲者を通して、右生前贈与により現実に経済的利益を受けている限度で特別受益に該当するとした昭和52年3月14日徳島家裁審判(家庭裁判月報30巻9号86頁)関連部分を紹介します。

○本件では被相続人A(祖父)の二男C(父)が大学卒業後、Aから特別受益と評価できる外国留学費用の贈与を受けており、Cの代襲相続人であるY1・Y2は、Aの相続に当たり、父Cが受けた特別受益を承継するかどうかが問題になりました。

○これについて徳島家裁審判は、被代襲者は被相続人から享受した特別受益を自ら消費してしまうこともあるし、被代襲者の特別受益について代襲相続人が常に持戻義務を課せられるならば時に酷な結果を生じ、かえつて衡平を失なうおそれがあるので、代襲者(孫)が被代襲者(父)を通して被代襲者が被相続人(祖父)から受けた贈与によつて現実に経済的利益を受けている場合にかぎりその限度で特別受益に該当するところ、本件ではCの外国留学費用は、その子らの直接的利益となっていないので、特別受益にはならないとしました。

○祖父から父への特別受益について代襲相続人孫の特別受益になるかどうかは、この代襲者(孫)が被代襲者(父)を通して被代襲者が被相続人(祖父)から受けた贈与によつて現実に経済的利益を受けている場合にかぎりその限度で特別受益に該当するとの考え方が、相続実務となっているようです。

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主   文
1 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1) 別紙目録(略)記載1~6、16、30、31の遺産はすべて申立人X1の単独取得とする。
(2) 申立人X1は申立人X2承継人X3に対し1711万3363円、相手方Y1、同Y2に対し各427万8341円、相手方Y3に対し855万6682円を支払え。
(3) 申立人X1は相手方Y4に対し、相手方Y4が別紙目録(略)記載1~6、16の不動産についての徳島地方法務局00出張所昭和49年4月3日受付第2039号Y4持分の根抵当権設定登記、同昭和50年6月4日受付第3198号Y4持分の根抵当権設定登記および同昭和50年8月25日受付第5729号Y4持分の根抵当権設定登記の各抹消登記手続をするのと引き換えに、565万7294円を支払え。
2 相手方Y1、同Y2、同Y3および同Y4は別紙目録(略)記載1~6、16の遺産についての共有持分につき申立人X1に対し遺産分割を原因とする所有権持分移転登記手続をせよ。
3 本件手続費用中、鑑定人Eに支給した鑑定費用20万円は相手方Y1、同Y2および同Y4の連帯負担とし、その余の費用はそれぞれ支出した者の負担とする。

理   由
第1 本件申立の趣旨

被相続人(亡)Aの遺産の分割を求める。

第2 当裁判所の判断
調査、審問の結果にもとづく当裁判所の事実上および法律上の判断は次のとおりである。

1 相続の開始
 被相続人(亡)Aは長年地方公務員として勤務し、旧徳島県00郡00村(現徳島00町)村役場の書記を経て助役、村長と昇進した者で、その傍ら家業の農業に従事してきたが、昭和38年4月19日に老衰のため享年87歳で死亡した。

2 相続人および法定相続人
(1) 被相続人は明治33年11月30日Bと婚姻し、その間に長男X1(明治34年3月28日生)、二男(亡)C(明治40年1月3日生)、三男Y3(明治41年11月3日生)、四男Y4(大正7年5月8日生)が出生した。二男Cは昭和7年1月3日Dと婚姻し、その間に長女Y1(昭和7年2月11日生)、長男Y2(昭和10年3月6日生)が出生したが、Cは昭和30年9月19日食中毒のため死亡したので、長女Y1、長男Y2が同人の代襲相続人である。

(2) 被相続人と相手方Y3との親子関係の存否について

         (中略)

5 特別受益
 当事者のうち被相続人から生前生計の資本として贈与を受けた者、その財産および相続開始時における価額は次のとおりである。
(1) 相続人(亡)C(代襲相続人Y1、Y2)
 被相続人の二男(亡)Cは徳島00高校から00大学専門部を卒業した後、外国に留学することになり、アメリカ0000000大学の入学許可がきたので、被相続人は当時田畑俊一発起の1万円頼母子講を15番で落札し、落札金9200円をCの留学費用として同人に贈与したが、Cの渡米前に00大学時代の恩師が当時の満州国立法院長に任命されたため、Cも同国立法院に就職することになり、上記留学を取り止めたことが認められる。

Cの外国留学は他の兄弟と違つて特別の高等教育を受けることに該当するから、被相続人から贈与されたその費用は民法903条の生計の資本としての特別受益に含まれる。ところが、本件においてCは被相続人の相続開始以前に死亡し、相手方Y1、同Y2が父Cを代襲相続しているので、被代襲者(父)が生前贈与を受けて死亡した場合に代襲者(被相続人の孫)の具体的相続分はどうなるかという問題がある。

当裁判所は、被代襲者は被相続人から享受した特別受益を自ら消費してしまうこともあるし、被代襲者の特別受益について代襲相続人が常に持戻義務を課せられるならば時に酷な結果を生じ、かえつて衡平を失なうおそれがあるので、代襲者(孫)が被代襲者(父)を通して被代襲者が被相続人(祖父)から受けた贈与によつて現実に経済的利益を受けている場合にかぎりその限度で特別受益に該当し、この場合には代襲者に被代襲者の受益を持ち戻させるべきであると考える。

そうすると、外国留学の費用はCの一身専属的性格のもので、代襲者である相手方Y1、同Y2はそれによる直接的利益を何ら受けないものであることが明らかであるから、受益者Cが死亡したのちは、上記代襲相続人に対し特別受益と認め持戻させるのは相当でないというべきである。


(2) X1
1 別紙目録(略)記載22~29の土地はもと登記簿上X1の所有名義であり、同人は昭和45年12月22日これを友行に贈与し、昭和46年10月19日付で所有権移転登記をしている。

2 相手方Y4は上記土地のうち別紙目録(略)記載24、26、27の土地は大正15年5月11日被相続人から申立人X1に生前贈与されたものであり、その余の土地は被相続人名義の小作権にもとづき戦後の農地解放によつて昭和24年10月14日申立人X1名義で取得されたものであるから、実質上は被相続人からの生前贈与とみるべきだと主張している。

3 しかしながら、登記簿の記載によると別紙目録(略)記載24、27の土地は大正15年5月11日上村洋次郎から申立人X1に同日付売買を原因として所有権移転登記がされ、同目録記載26の土地は同年3月30日矢島源吉から申立人X1に同日付売買を原因として所有権移転登記がなされているところ、明治34年生れの申立人X1は当時25歳で、大正13年には妻大沢と婚姻して(大正14年10月1日届出)、大正14年12月28日長男浩をもうけ、旧制徳島中学を中退後公務多忙な被相続人に代わりすでに相当期間家業の農業に従事してきていた時期である。

他方被相続人は当時すでに別紙目録(略)記載6~10、13~21の農地を所有しており、上記3筆の農地を含む別紙目録(略)記載22~29の土地は当時大正15年3月22日矢島源吉において家督相続したが、同人は同目録26の土地を除いて同日上村洋次郎に売り渡し、次いで同年5月11日別紙目録22、23、25、28、29の土地が上村洋次郎から村田義一郎に、同日同目録24、27の土地が上村洋次郎から申立人X1に所有権移転登記され(同目録26の土地は前記のとおり矢島源吉から直接申立人X1に所有権移転登記されている)、村田義一郎に所有権移転登記された土地は後記のとおり全部戦後の農地改革による政府売渡により申立人X1に所有権移転登記されている経緯にかんがみると、別紙目録(略)記載24、26、27の土地は当時小作契約が締結されておらず、申立人X1において自作地とするためこれを買い受けたものであるとの可能性もあながち否定できないし、他方相手方Y4の主張は何らこれを裏付ける証拠がない。結局上記土地は登記の推定力により、申立人X1において独力で取得したものと認めざるを得ない。

4 別紙目録(略)記載22、23、25、28、29の土地は前記のとおりもと村田義一郎の所有名義であつたところ、昭和22年8月2日自作農創設特別措置法16条の規定による政府売渡によりいずれも昭和24年8月27日申立人X1名義に所有権移転登記されている。これらの土地には戦前戸主であつた被相続人名義で小作契約が結ばれていたが、実際は申立人X1において耕作を続けてきていたものであるし、昭和22年当時被相続人はすでに年齢70歳をこえており、申立人X1が実質上の小作人として農地改革にともなう政府売渡を受け,同人において売渡代金を支弁したものであることが明らかである。

5 従つて別紙目録(略)記載22~29の土地はいずれも申立人X1において独力で所有権を取得したものであり、被相続人からの生前贈与による特別受益に該当しないと認めるのが相当である。

(3) Y4
1 相手方Y4は昭和11年旧制00中学、昭和14年00大学専門部、昭和16年12月00大学学部をそれぞれ卒業しているが、00大学在学中被相続人から学資の援助を受けた。また相手方Y4は大学卒業後北京の00営団に就職し、終戦後昭和21年5月引き揚げ昭和30年頃まで大阪市で居住していたが、この間昭和27年頃当時勤務していた会社のアスファルト部門が分離して新会社が設立されたり、また大阪市0区で0000株式会社を経営しているとき、会社の運営資本として、昭和27年12月2日から昭和29年12月20日の間に、申立人X1から15万円、相手方Y3から10万円、上田英次郎から10万円、佐藤義治から10万円、倉田某から11万円、合計金56万円を被相続人の連帯保証(申立人X1からの借入金を除く)のもとに借り受けたが、結局この支払ができなかつたため、相手方Y4の依頼により、被相続人において昭和30年3月頃元本全額56万円(支払利息については金額が不明であるので認定しない)を相手方Y4に贈与する意思をもつて各貸主に代位弁済した。本件証拠中には相手方Y4が他にも被相続人から生前贈与を受けたことをうかがわせる資料も存するが、その内容が明確でないので、特別受益として考慮しない。

2 そして被相続人の資産、社会的地位を基準に考えた場合、相手方Y4が大学教育を受けたことは相応程度のもので、他の兄弟と異なる特別の教育を受けさせてもらつたものではないと認められるので、大学卒業のために要した学資の支出は親の負担すべき扶養義務の範囲内に入るものと認められ、従つて生計の資本としての贈与にはあたらない。

しかし被相続人による前記代位弁済は明らかに生計の資本としての金銭の贈与にあたる。そして相続人が被相続人から贈与された金銭を特別受益として具体的相続分算定の基礎となる財産の価額に加える場合には贈与時の金額を相続開始時の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきものであるところ、相手方Y4が被相続人から贈与を受けた昭和30年と昭和38年の相続開始時とでは消費者物価指数において30%の増加であることは公知の事実(総理府統計局消費者物価接続指数総覧参照)であるので、相手方Y4の受けた贈与金56万円を相続開始時当時の貨幣価値に換算すると72万8000円となる。

(4) 他の相続人中特別受益者に該当するものは見当らない。