小松法律事務所

指定相続分零の相続人は特別寄与料負担義務も零とした最高裁決定紹介


○「指定相続分零の相続人は特別寄与料負担義務も零とした高裁決定紹介」の続きで、その許可抗告審令和5年10月26日最高裁決定(最高裁判所民事判例集77巻7号1928頁)全文を紹介します。

○亡Aの長男bの妻である抗告人が、Aの相続人の1人である相手方に対し、民法1050条に基づき、特別寄与料のうち相手方が負担すべき額として相当額の支払を求め、一審名古屋家裁はは、相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料について、民法900条から902条までの規定により算定した相続分(法定相続分等)に応じた額を負担するから(同法1050条5項)、遺言により相続分がないものと指定された相続人は特別寄与料を負担せず、このことは当該相続人が遺留分侵害額請求権を行使したとしても左右されないと判断して、本件申立て却下の審判をしました。

○抗告審名古屋高裁も、被相続人の所有する財産全部をbに相続させる旨の本件遺言は、bの相続分を100と、相手方の相続分を0とする相続分の指定の趣旨を含んでいるから、相手方の指定相続分は0となり、相手方は特別寄与料を負担しないとして、原審申立却下は相当として、抗告を棄却しました。

○許可抗告審最高裁判所においても、民法1050条5項は、相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の負担割合について、相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点から、相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしたものと解され、このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではない許可抗告を棄却しました。

○私には納得出来ない結論ですが、最高裁が決めた以上どうにもならず、今後は特別寄与料請求が可能な事案での遺言は、その請求額も考慮した上で、指定相続分の割合を検討すべきことになります。

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主   文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。

理   由
 抗告代理人○○○○、同○○○○の抗告理由について
1 本件は、亡Aの親族である抗告人が、Aの相続人の1人である相手方に対し、民法1050条に基づき、特別寄与料のうち相手方が負担すべき額として相当額の支払を求める事案である。

2 記録によれば,本件の経緯は次のとおりである。
(1)Aは、令和2年6月、死亡した。Aの相続人は、Aの子であるb及び相手方の2名であり、抗告人は、bの妻である。 
(2)Aは、生前、Aの有する財産全部をbに相続させる旨の遺言をしていた。上記遺言は、bの相続分を全部と指定し、相手方の相続分をないものと指定する趣旨を含むものである。
(3)相手方は、令和3年3月、bに対し、遺留分侵害額請求権を行使する旨の意思表示をした。

3 原審は、相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料について、民法900条から902条までの規定により算定した相続分(以下「法定相続分等」という。)に応じた額を負担するから(同法1050条5項)、遺言により相続分がないものと指定された相続人は特別寄与料を負担せず、このことは当該相続人が遺留分侵害額請求権を行使したとしても左右されないと判断して、本件申立てを却下すべきものとした。

 所論は、遺言により相続分がないものと指定された相続人であっても、遺留分侵害額請求権を行使した場合には、特別寄与料について遺留分に応じた額を負担すると解するのが相当であるから、原審の上記判断には法令の解釈適用を誤った違法があるというものである。

4 民法1050条5項は、相続人が数人ある場合における各相続人の特別寄与料の負担割合について、相続人間の公平に配慮しつつ、特別寄与料をめぐる紛争の複雑化、長期化を防止する観点から、相続人の構成、遺言の有無及びその内容により定まる明確な基準である法定相続分等によることとしたものと解される。このような同項の趣旨に照らせば、遺留分侵害額請求権の行使という同項が規定しない事情によって、上記負担割合が法定相続分等から修正されるものではないというべきである。
 そうすると、遺言により相続分がないものと指定された相続人は、遺留分侵害額請求権を行使したとしても、特別寄与料を負担しないと解するのが相当である


5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 安浪亮介 裁判官 山口厚 裁判官 深山卓也 裁判官 岡正晶 裁判官 堺徹)