小松法律事務所

信託法の基礎の基礎-信託と委任契約の比較


○7年ぶりに家族信託と任意後見契約の相談を受けました。家族信託は信託法に基づく制度で信託については、「信託法の基礎の基礎-信託行為の基本的定義等」に、任意後見については、「任意後見契約の基本の基本1」に記載していましたが、うろ覚えで、該当ページを印刷して渡し、次回相談までに復習しておくことを約束しました(^^;)。

○任意後見制度は、その概要は覚えていましたが、信託制度は、ここ7年程相談もなく不勉強のままでした。そこで久しぶりに遠藤英嗣公証人著「新しい家族信託」を取り出して眺めています。その中で「3 信託の特徴を知る-信託と委任契約の比較から」の備忘録です。

先ず条文です。
民法第643条(委任)
 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

信託法第2条(定義)
 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
信託法第3条(信託の方法)
 信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
1.特定の者との間で、当該特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の契約(以下「信託契約」という。)を締結する方法
2.~(略)

・委任は契約(双方意思表示合致)で法律関係を設定するが、信託は契約に限らず、「遺言」、「自己信託(信託宣言、信託法第3条三号)」で単独行為(一方的意思表示)でも可能、
・委任では財産の所有権は移転しないが、信託では信託財産は委任者本人の手から離れ、受託者の所有名義になる、
・受託者の所有名義になっても受託者や受益者の固有財産にはならず、委任者及び受託者の債権者が信託財産に強制執行はできない-信託財産の独立性・倒産隔離機能
・委任では委任者の命令が絶対的であるところ、信託では「信託の目的」が重要で受託者は「信託の目的」に背くことはできない-委託者の指示が「信託の目的」に反する場合、受託者はそれに従うことはできない
・信託制度では、信託が開始されると制度の重点は「信託の目的」に守護された受益者に向けられ、基本的には委託者はかやの外に置かれる
・委任では裁判所の関与はない(例外は任意後見契約のみ)が、信託は監督機能(受益者保護制度)の枠組み(信託監督人・信託財産管理者・検査役等)があり二次的ではあるが裁判所が直接関与する仕組みがある
・委任は契約であり契約能力が必要だが、信託は委任者の適格についての定めがない(遺言信託は15歳以上で可能)
・信託では、第三者として受益権を有する受益者が登場するが、委任では第三者のためにする契約以外第三者は登場しない
・委任での受任者の義務は善管注意義務だけであるが、信託での受託者の義務は信託法規定19カ条に及ぶ
・委任では当事者はいつでもその解除ができるが、信託では委任者及び受益者の同意がないと辞任できない(信託法57条)
・委任では当事者の一方が死亡すれば原則終了するが、信託の場合当事者の死亡は信託に影響がない
・信託で受託者が死亡しても、次の受託者が引き継ぎ、後継受託者がいない場合当事者の合意か裁判所選任新受託者が引き継ぐ